遺族年金等(収入保障保険)の支払いを巡る裁定事案。

生命保険協会が取りまとめた、令和5年4~6月の裁定概要集(PDF)に、遺族年金等(収入保障保険)の支払いを巡る裁定事案がありました。

事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。

<事案の概要>
 遺族年金等の支払いを求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 被保険者が多発転移性肝腫瘍により死亡したため、令和元年10月に契約した収入保障保険にもとづき、遺族年金等を請求したところ、告知義務違反を理由に契約が解除され遺族年金等が支払われなかった。しかし、以下の理由により、遺族年金等を支払ってほしい。

(1)被保険者は、募集人に対し、悪性黒色腫の手術後、定期的に再検査・精密検査をしていたこと、肝転移を疑う精密検査を受けていたことを伝え、告知の要否を相談したが、募集人から、「定期的に受けているなら可」と言われたことから、特段告知することなく契約が成立した。

(2)医療機関の回答書には、検査結果は良性血管腫であり、死亡原因との因果関係はないとされている。

この事案は既に裁定終了となっています。

「悪性黒色腫」とはメラニン色素をつくる「メラノサイト」が癌化して発生する悪性腫瘍です。皮膚がんの一種としても知られていますが、粘膜や眼部でも生じます。

粘膜に生じた悪性黒色腫は、皮膚に生じたものより予後が悪いそうです。

さて、被保険者は悪性黒色腫の手術後、定期的に再検査・精密検査を受けていたようですが、この時点で契約申し込み手続きをすること自体に??です。

と申しますのも、このようなケースでは、保険会社の引き受け査定が大変厳しい結果(引受謝絶の可能性がとても高い)になるからです。

<保険会社の主張>によると、医療機関への確認で、被保険者は告知日以前に「転移性肝腫瘍疑い」で紹介受診し、告知日3ヵ月以内に検査を勧められていたことが判明しています。

その後、悪性黒色腫による多発転移性肝腫瘍(悪性黒色腫が肝臓に転移しており、画像検査で腫瘤が多発していることが確認できる状態)で亡くなったのですから、保険会社が告知義務違反による契約解除としたのは妥当でしょう。

仮に正直に告知していたら、引受謝絶となっていたものと思われます。

【裁定事案の内容】

以下、裁定事案の内容です(令和5年4~6月裁定概要集・P40~41より転載)。

[事案2022-96]遺族年金等支払請求
・令和5年4月27日 裁定終了

<事案の概要>
 遺族年金等の支払いを求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 被保険者が多発転移性肝腫瘍により死亡したため、令和元年10月に契約した収入保障保険にもとづき、遺族年金等を請求したところ、告知義務違反を理由に契約が解除され遺族年金等が支払われなかった。しかし、以下の理由により、遺族年金等を支払ってほしい。

(1)被保険者は、募集人に対し、悪性黒色腫の手術後、定期的に再検査・精密検査をしていたこと、肝転移を疑う精密検査を受けていたことを伝え、告知の要否を相談したが、募集人から、「定期的に受けているなら可」と言われたことから、特段告知することなく契約が成立した。

(2)医療機関の回答書には、検査結果は良性血管腫であり、死亡原因との因果関係はないとされている。

<保険会社の主張>
 以下の理由により、申立人の請求に応じることはできない。

(1)医療機関への確認の結果、被保険者は、告知日以前に悪性黒色腫の「転移性肝腫瘍疑い」にて紹介受診され、告知日前3ヵ月以内に検査をすすめられていたことが判明しており、告知義務違反に該当する。

(2)被保険者の死因は、悪性黒色腫による多発転移性肝腫瘍であることから、不告知事項と因果関係がある。

(3)募集人は、被保険者から、悪性黒色腫にかかる検査受診について聞いていたものの、告知項目における「がんの疑いでの再検査・精密検査」の該当性の判断はできないとして、主治医への確認を案内した。

<裁定の概要>
1.裁定手続
 裁定審査会は、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、告知時の状況と和解を相当とする事情の有無を確認するため、申立人および募集人に対して事情聴取を行った。

2.裁定結果
 上記手続きの結果、遺族年金等の支払いを認めることはできず、その他保険会社に指摘すべき特段の個別事情も見出せないことから、和解による解決の見込みがないと判断して、手続を終了した。

以上です。

↑春の夕日を浴びるシオヤトンボ・♀(4月撮影)。

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