がん給付金の支払いを巡る裁定事案。

生命保険協会が取りまとめた、令和5年1~3月の裁定概要集(PDF)に、がん給付金の支払いを巡る裁定事案がありました。

裁定概要集によりますと、事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。

<事案の概要>
 約款に定めるがんに該当しないことを理由に、がん給付金が支払われなかったことを不服として、既払込保険料の返還等を求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 卵巣がんにより入院し、子宮付属器腫瘍摘出術を受けたことから、平成16年9月に代理店を通じて契約したがん保険にもとづき、がん給付金を請求したが、約款に定めるがんに該当しないとして、がん給付金が支払われなかった。しかし、以下等の理由により、既払込保険料を返還してほしい。

(1)契約に際し、募集人から、がんと診断された場合には、どんながんでも給付金が支払われると説明されている。

(2)給付金の不支払通知が届いたため、募集人に電話したところ、がんの診断書が出ているなら支払われると回答された。

(3)給付金不支払通知は、一貫して不親切で分かりづらく、担当者から電話があった際に分かりやすく説明するよう求めたものの、弁護士や医師を紹介すると回答されるのみで、理由が分からないまま数ヵ月が経過し精神的苦痛を受けた。

…この事案は既に和解が成立しています。

<保険会社の主張>によると、申立人が診断されたのは、「卵巣がん(Endometrioid borderline tumor)」とありますが、これだけは何を言っているのかさっぱり分かりません。

調べてみたところ、申立人の卵巣癌は「類内膜境界悪性腫瘍」というものでした。複数の医療機関のHPで確認したところ、以下のことが分かりました。

①卵巣癌のひとつである上皮性腫瘍に分類される。

②組織学的には良性に近い所見でありながら悪性腫瘍に似た経過を示す。悪性と良性の中間的な性質を持つ。

では、なぜがん保険の給付金支払事由非該当となったのか?

申立人の疾患である「類内膜境界悪性腫瘍」が、約款記載の「対象となる悪性新生物」が準拠する、「ICD-10分類C51-C58 女性生殖器の腫瘍<悪性新生物>」に含まれていないため

-と管理人は推測しています。

今回の件に限らず、主治医の診断書には「悪性」「がん」と記載されているにもかかわらず、給付金の支払事由非該当なった事例はしばしば見受けられます。

お客様と保険会社の間での支払いを巡るトラブルを防ぐには、約款を契約前に十分な時間的余裕をもって、丁寧に説明し、説明箇所にはマーカーを引き、付箋をつけて手交することが重要ですね。

<事案の内容>

以下、裁定事案の内容です(令和5年1~3月分裁定概要集P1~2より転載)。

[事案2021-273]既払込保険料返還請求
・令和5年1月26日 和解成立

<事案の概要>
 約款に定めるがんに該当しないことを理由に、がん給付金が支払われなかったことを不服として、既払込保険料の返還等を求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 卵巣がんにより入院し、子宮付属器腫瘍摘出術を受けたことから、平成16年9月に代理店を通じて契約したがん保険にもとづき、がん給付金を請求したが、約款に定めるがんに該当しないとして、がん給付金が支払われなかった。しかし、以下等の理由により、既払込保険料を返還してほしい。

(1)契約に際し、募集人から、がんと診断された場合には、どんながんでも給付金が支払われると説明されている。

(2)給付金の不支払通知が届いたため、募集人に電話したところ、がんの診断書が出ているなら支払われると回答された。

(3)給付金不支払通知は、一貫して不親切で分かりづらく、担当者から電話があった際に分かりやすく説明するよう求めたものの、弁護士や医師を紹介すると回答されるのみで、理由が分からないまま数ヵ月が経過し精神的苦痛を受けた。

<保険会社の主張>
 以下等の理由により、申立人の請求に応じることはできない。

(1)申立人が診断された、「卵巣がん(Endometrioid borderline tumor)」は、約款上のがん(悪性新生物・上皮内新生物)に該当しない。

(2)契約にあたり、募集人が、どんな種類のがんも、がんと診断されたら給付金の支払対象になると説明した事実はなく、説明に使用したパンフレットについても、全てのがんが給付金支払対象であると誤認されるような記載はない。

(3)募集人は、申立人から不支払理由について問い合わせがあった際にも、給付金が出るとは言っていない。

<裁定の概要>
1.裁定手続
 裁定審査会は、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、申込時の状況等を把握するため、申立人および募集人に対して事情聴取を行った。

2.裁定結果
 上記手続きの結果、募集人の誤説明による既払込保険料の返還は認められないものの、以下の理由により、和解により解決を図るのが相当であると判断し、和解案を当事者双方に提示し、その受諾を勧告したところ、同意が得られたので、手続を終了した。

(1)給付金の不支払通知の内容は、申立人の卵巣がんが、約款所定の悪性新生物の診断確定に該当しないといった趣旨の短い説明と約款上行の添付にとどまり、申立人が「卵巣がん」と診断を受けている中で、がん保険の給付金支払対象外となることに得心することは困難であったと思われる。

(2)申立人からの説明要望により保険会社から送付された書面では、約款上の「悪性新生物および上皮内新生物」の定義を説明したうえで、支払対象となる「がん」と申立人がそれに該当しないことを説明し、資料として約款、ICD-10(疾病、傷害および死因統計分類提要)、ICD-10(国際疾病分類 腫瘍学)の各抜粋を添付している。しかし、説明は専門用語で短く記載されており、一般の契約者が容易に理解できる内容とは言い難く、資料として添付された専門書の抜粋には補足説明がなく、ICD-10に至っては英文で、これを読んだ申立人が得心するどころかかえって混乱し、保険会社に不信感を強めたことが想像できる。

(3)支払担当者としては、より噛み砕いた内容の補足説明を記載する、自らまたは募集人より口頭補足説明を行うなど、より詳細かつ丁寧な説明をすべき状況であった。

(4)上記(1)(2)の2通の書面は、申立人が理解することが相当程度困難なものであったこと、また、給付金請求から2通目が送付されるまで半年以上が経過しており、このような対応が本紛争の原因となったと考えられる。

以上です。

↑春の河原の片隅で翅を休めるナミアゲハ春型の♂(4月撮影)。