リビングニーズ特約にもとづく特定状態保険金の支払いを巡る裁定事案。

生命保険協会が取りまとめた令和3年10~12月の裁定概要集(PDF)に、リビングニーズ特約にもとづく特定状態保険金の支払いを巡る裁定事案がありました。

裁定概要集によりますと、事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。

<事案の概要>
余命6ヵ月以内と診断されたにもかかわらず、リビング・ニーズ特約にもとづく特定状態保険金が支払われないことを不服として、保険金の支払いを求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
胃がんにより入院し、平成25年7月に余命6ヵ月である旨宣告され、その後、令和3年2月にリビング・ニーズ特約にもとづき特定状態保険金を請求したが、支払事由である「被保険者が余命6ヵ月と判断される場合」に該当しないとして、支払われなかった。しかし、以下の理由により、特定状態保険金を支払ってほしい。

(1)診断書に記載されているとおり、平成25年7月に余命6ヵ月と診断されている。

(2)保険会社から、特定状態保険金の請求ができることを案内されなかった。

…この事案はすでに裁定が終了しています。

医師から「余命6ヵ月以内」と診断されたにもかかわらず、なぜ特定状態保険金が支払われなかったのか?

実は、特定状態保険金は医師が余命6ヵ月以内と判断すればしはらわれるというものではありません。

「余命6ヵ月以内」とは、「日本で一般に認められた医療による治療を行っても余命が6ヵ月以内である」ことを意味しています。そしてその判断は、医師が記入した診断書や保険金の請求書類にもとづいて保険会社が行います。

つまり、申立人の状態は、支払事由の定義に該当していなかったため、保険金が支払われなかったのです。

【事案の内容】
以下、裁定事案の内容です(令和3年10~12月裁定概要集・P55~56より転載)。

[事案2021-104] 特定状態保険金支払請求
・令和3年11月11日 裁定終了

<事案の概要>
余命6ヵ月以内と診断されたにもかかわらず、リビング・ニーズ特約にもとづく特定状態保険金が支払われないことを不服として、保険金の支払いを求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
胃がんにより入院し、平成25年7月に余命6ヵ月である旨宣告され、その後、令和3年2月にリビング・ニーズ特約にもとづき特定状態保険金を請求したが、支払事由である「被保険者が余命6ヵ月と判断される場合」に該当しないとして、支払われなかった。しかし、以下の理由により、特定状態保険金を支払ってほしい。

(1)診断書に記載されているとおり、平成25年7月に余命6ヵ月と診断されている。

(2)保険会社から、特定状態保険金の請求ができることを案内されなかった。

<保険会社の主張>
以下の理由により、申立人の請求に応じることはできない。

(1)特定状態保険金の請求時点では、被保険者の余命は6ヵ月以内ではない。

(2)診断書等の内容によれば、日本で一般に認められた医療による診療を行った場合には、「被保険者の余命は6ヵ月以内と判断される場合」には該当しない。

<裁定の概要>
1.裁定手続
裁定審査会では、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、申立人の主張内容等を把握するため、申立人に対して事情聴取を行った。

2.裁定結果
上記手続きの結果、リビング・ニーズ特約にもとづく特定状態保険金の支払事由に該当するとは認められず、その他保険会社に指摘すべき特段の個別事情も見出せないことから、和解による解決の見込みがないと判断して、手続きを終了した。

以上です。

新型コロナウイルス感染症への入院給付金の請求が急増。支払の遅延も生じる。

4月19日の日本経済新聞朝刊に、新型コロナウイルス感染症への入院給付金支払の動向に関する記事がありました。

記事によりますと、

< 新型コロナウイルスの第6波による感染拡大を受け、生命保険会社に対する入院給付金の請求が急増している。明治安田生命保険では直近の支払件数が第5波の影響を受けた昨年秋の約3倍に膨らんだ。査定の担当者を増やしても人手が追い付かず、5営業日以内とする支払いが遅れ始めた生保もある。重症化の懸念が小さくなる中、自宅で療養する軽症者に「みなし入院」として給付金を支払う是非を問う声も出始めている。>

とのことです。

【管理人の感想】
新型コロナウイルス感染症に伴う入院給付金の請求は各社とも増加しており、請求受付にもかなりの負担がかかっています。できる限り、速やかに請求を受け付けて書類を発送するために各社とも懸命に対応しており、頭が下がります。

なお保険商品は、今回のようなパンデミックで各種保険金、給付金の支払いが急増しても支払うべきものを支払い、保険財務が悪化することがないよう設定されています。

【記事の内容】
以下、日経の記事の内容です。

-日本経済新聞 2022年4月19日朝刊-

【入院保険金「第6波」で急増-明治安田、第5波の3倍に。人繰り苦慮で給付遅れも】
新型コロナウイルスの第6波による感染拡大を受け、生命保険会社に対する入院給付金の請求が急増している。明治安田生命保険では直近の支払件数が第5波の影響を受けた昨年秋の約3倍に膨らんだ。査定の担当者を増やしても人手が追い付かず、5営業日以内とする支払いが遅れ始めた生保もある。重症化の懸念が小さくなる中、自宅で療養する軽症者に「みなし入院」として給付金を支払う是非を問う声も出始めている。

病気やけがの治療で入院した患者に支払われる入院給付金は、生保が取り扱う医療保険につく保障だ。実際の入院から保険会社へ請求が届くまで時間差がある。現在は第6波で1日当たりの感染者が10万人を超えた2月以降の請求に対し、保険会社が書類の審査や支払いの対応に追われている。

明治安田生命では第5波の影響で支払いが増えた昨年10月に比べ、今年3月の支払い件数は約3倍の2万5000件程度に増えたという。住友生命保険も3月の請求が前月比で3倍以上に膨らんでおり、ほかの生保でも同じような状況だ。

保険金・給付金を支払うには、被保険者の診断書など書類を審査する必要がある。各社は支払いに備えて日ごろから一定の人員を抱えているが、想定を上回る請求で体制の見直しを急いでいる。

日本生命保険は他部署などからの応援で、平均の2倍近い300人規模に拡充した。別の大手も3割程度増やしたといい、「感染の第7波に備えてさらに人員の増強を検討しなければならない」(幹部)。

人繰りに苦慮する中、支払いが遅れるケースも出始めた。保険会社と契約者の約束を記載する約款では一般的に、請求が届いてから5営業日以内に保険金・給付金を支払うと定めている。これを過ぎると年3%の遅延利息を上乗せする必要がある。

ある大手生保の幹部は「支払の急増で支払いに5日以上を要する場合が増えてきた」と明かす。住友生命も「平時より遅れが多くなっているのは事実」と認める。日本生命は4月半ばから、支払い遅れが生じる可能性があることを一部の契約者に通知し始めた。

「入院給付金」と銘打っているが、実際に入院した患者からの請求は2割前後にとどまる。残りは新型コロナウイルスの陽性と要請と判定されても、自宅やホテルでの療養を余儀なくされた「みなし入院」が占める。医師に入院を勧められても、医療機関の逼迫で希望がかなわない人を実際に入院したとみなして給付金を支払う措置だ。

生命保険協会でも「宿泊・自宅療養証明書」を用意し、自治体や保健所の担当者による署名で保険金を申請できるよう手続きの簡素化を進めてきた。同協会によると、今年2月末時点の支払額は加盟42社の合計で580億円弱にのぼる。

第6波の中心であるオミクロン株は感染力が強い一方、重症化率は従来株より低い傾向にあることが分かっている。症状が軽く、数日で職場などに復帰できるような感染者でも給付を受けられる。ある生保首脳は「(季節性のインフルエンザでも)支払いを受けられない契約者が不公平感を強めるのではないか」と違和感を口にする。

それでも毒性の強い変異株の新型コロナウイルスがこれから流行しないとも限らない。15日に記者会見した生保協の高田幸徳会長(住友生命保険社長)は「(現段階でみなし入院中の)給付金としてお支払いするのがコンセンサスではないか」と措置の見直しに否定的な考えを示す。

新型コロナウイルスの感染症法上の分類を「2類相当」から季節性インフルエンザと同じ「5類」へ下げることについては議論がある。当面はみなし入院となる契約者・被保険者への支払いは続く。不公平さの解消と社会的な要請のはざまに揺れる生保の苦悩が強まっている。

以上です。

↑3月下旬に撮影した染井吉野。

保険金等支払い時の備え。いざというときは家族が請求手続き。

4月16日の日本経済新聞朝刊に、生命保険の指定代理請求制度など、契約者・被保険者本人以外の家族が契約内容の照会や、保険金等の支払い請求ができる制度に関する記事がありました。

【管理人の感想】
記事が取り上げているのは、家族情報登録制度、指定代理請求制度、保険契約者代理制度の3つです。

このうち、家族情報登録制度は契約内容の照会ができる制度で、指定代理請求制度と保険契約者代理制度は家族が契約者・被保険者本人に代わって、保険金等の請求ができる制度です。

また、保険契約者代理制度は契約者本人に代わって保険契約の解約もできる制度です。

記事でも書かれていますが、こうした制度は契約者・被保険者本人に正常な判断力があるうちに保険会社に申し出て制度が利用できるようにしておくことが大事です。

指定代理請求制度は、医療保険やがん保険、リビングニーズ特約等で契約前に約款で説明を受け、契約締結時に付加しておいた方も多いかと存じます。どのようなときに指定代理請求が可能なのかは約款に記載されていますので、定期的に確認してください。

家族情報登録制度は、契約後に保険会社から書面が送られてきて登録を申し出たという方も多いかと存じます。管理人は母の契約でこの手続きを行いました。

【記事の内容】
以下、日経の記事の内容です。

-日本経済新聞 2022年4月16日朝刊-

【認知症、家族が保険手続き】
「せっかく加入しても、保険金の請求ができなければ意味がない」。こう話すのはファイナンシャルプランナー(FP)の清水香氏。80代の両親がそれぞれ契約する医療保険で、3月に代理人登録をしてもらったという。両親は今のところ健康状態に大きな問題はないが、認知症などを今後患って保険金を請求できなくなるといった事態に備えるためだ。

保険に加入する高齢者は増えている。生命保険文化センターの調査では、医療保険や医療特約に加入する80歳以上の世帯は2021年に8割超と18年の6~7割から増加した。「80代でも契約できる終身タイプの医療保険が増えたことが影響している」と清水氏は語る。

一方、厚生労働省の調査によると認知症の患者は25年で推計約700万人と65歳以上の約5人に1人を占める見通し。何らかの保険に加入しながら認知症になる人も多くなりそうだ。

ただし保険会社は個人情報保護の観点から、原則として契約者以外に契約の有無や内容を開示しない。保険の手続きも契約者や被保険者本人がするか、成年後見制度を利用する場合に限られる。このため契約者などが認知症になると、家族が保険の存在や内容を知ることが難しくなったり、必要な手続きができなかったりする恐れがある。

そこで選択肢の一つになるのが清水氏も利用する「指定代理請求制度」だ。病気やけがなどで被保険者の判断能力がなくなった際に備えて代理人を決めておけば※、万一の際に被保険者に代わって保険金の請求と請求に必要な情報を照合することができる。

※管理人補足:指定代理請求制度は「被保険者の判断能力がなくなった」ということに限った制度ではありません。病名の告知がされていないなど保険会社が認めるやむを得ない事情に該当すれば利用できる制度です。詳細は約款で確認してください。

指定代理請求制度と並んで多くの保険会社が導入しているのが「家族情報登録制度」。事前に登録した家族などが契約内容を教えてもらえる。契約者の判断能力が十分で、登録する家族の同意があることなどが条件となる。18年に導入したかんぽ生命保険は「高齢の新規契約者のほとんどが利用する」(契約サービス部)という。

生命保険の保険金は請求しないと受け取れないため、契約があることを知っていれば請求漏れを防ぐことができる。入院などで治療費がかかっても給付金を代理で請求することは基本的にできないが、各社が個別のケースに応じて対応することが多いため問い合わせてみるといいだろう。

大手生保の一部がここ数年で導入し始めた「保険契約者代理制度」は、あらかじめ登録した家族などが代理人として契約内容の照会や住所変更、解約などをすることができる。22年4月に金融機関の窓口販売商品から同制度を始めた日本生命保険では「高齢の親などが加入する保険の手続きを代行したいといった問い合わせが増加傾向にあることに対応した」(お客様サービス部)と説明する。

同社の制度で登録できるのは主に3親等以内の親族で、契約者本人が家族を1人指定し、氏名や連絡先などを登録する。手続きが完了すると登録家族にも通知を送る。日生のほか住友生命保険や朝日生命保険などが導入している。

家族情報登録、指定代理請求、保険契約者代理制度はいずれも契約者や被保険者に判断能力があるうちに手続きをする必要がある。もし手続きをする前に認知症になったり、亡くなったりしたりしたらどうすればいいのか。

こうした場合に家族の保険契約の有無を一括で確認できるのが「生命保険契約紹介制度」。生命保険協会が21年7月から運営している。法定相続人や3親等以内の親族などが利用でき、紹介する際には戸籍や診断書等の書類を提出する。利用料が1回3000円(税込み)かかるが、生保42社に契約があるかどうかがわかる。

契約がある場合に家族などが保険会社に連絡すれば個別で対応する。ただし手続きには時間がかかるため、「加入している保険の種類や受取人、保険証券の保管場所などを本人と家族が事前に共有することが大切」(FPの田中香津奈氏)という。

損害保険でも生保と同様の仕組みを設ける例がある。東京海上日動火災保険の「親族連絡先制度」は、配偶者や2親等以内の親族を登録すれば契約者に代わって契約内容を確認できる。損害保険ジャパンは被保険者に面会などで確認してから配偶者などに代理請求を認める場合がある。「被保険者が手続できない場合の代理請求については商品の約款に記載するのが一般的。まず約款を確認したい」と日本損害保険協会では話す。

以上です。

↑、3月に撮影した大島桜。