金融庁が外貨建保険にメス?販売体制を問題視?-日経報道。

9月29日の日本経済新聞・朝刊に外貨建保険に関する記事がありました。

記事によりますと、

< 金融庁は銀行や証券会社の外貨建一時払い保険の販売について実態調査に乗り出す。他の金融商品との比較説明などが不十分で、売れば売るほど営業担当者の人事評価や給与が高くなる体系にも問題があるとみている。調査で具体的な問題が見つかれば、金融機関側に販売や評価体系の見直しを促す。

 調査は銀行・証券会社と生命保険会社の双方を対象とし、時期を分けて行う。2023年末ごろまでは、販売動向などをリスクベースで選定した銀行・証券会社数十社程度に対し、アンケート調査や対話によるヒアリングを重点的に実施する。年明け以降をめどに、生保各社の取り組みの状況を確認する。金融庁は生保各社に契約件数や中途解約率などデータの提供を依頼している。>

とのことです。

【管理人の感想】
これは管理人個人の考えですが、そもそも外貨建保険や変額保険を資産形成手段として扱うことに無理があります。保険は保障を確保する契約です。

資産形成を目的とするなら、それこそ証券会社(オンラインを含む)で金融商品(積み立てNISA、株式投資信託等)を購入したり、株式投資をしたりすればいいのです。

さて、記事冒頭なようなことを、金融庁は業界団体との意見交換会で主な論点として提起したのでしょうか?

令和5年度(令和5年4月以降)における業界団体との意見交換会で、金融庁が提起した主な論点を取りまとめたPDF資料を読む限り、そのような事実は確認できませんでした。

・主要行等(令和5年4月11日)

・全国地方銀行協会(令和5年4月12日)/第二地方銀行協会(令和5年4月13日)

・日本証券業協会(令和5年4月18日)

・生命保険協会(令和5年6月9日)

・主要行等(令和5年7月25日)

・全国地方銀行協会(令和5年7月12日)/第二地方銀行協会(令和5年7月13日)

・生命保険協会(令和5年7月21日)

・日本証券業協会(令和5年7月18日)

では、いったい何を根拠に記事を書いたのでしょうか?考えられるのは

①今年6月に金融庁がHPで公表した、「リスク性金融商品の販売会社による 顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」(全体版)のP17にある、

<6.来事務年度の対話・モニタリングの主なポイント

金融庁は、以下の観点から、引き続き対話・モニタリングを実施していく。

〇リスク性金融商品の販売・管理態勢の強化
・ 仕組債や外貨建て一時払い保険を含むリスク性金融商品の販売に関し、特定の商品への販売偏重や苦情が寄せられていないか。また、顧客の真のニーズの把握や分かりやすい説明を含め、適切な販売・管理態勢が構築できているか

・仕組債を販売する場合は、仕組債関連ガイドラインへの対応にとどまらず、経営陣が責任を持って、顧客の最善の利益を踏まえた商品性の見直しや販売可否を判断しているか>

②8月29日に公表した「2023事務年度金融行政方針」概要(PDF)にある、

<Ⅲ.金融システムの安定・信頼を確保する

〇顧客本位の業務運営の確保に向け、高リスクの金融商品の取扱いを含め、顧客の最善の利益に資する金融商品の組成・販売・管理等に関する態勢整備を促す。>

コラム(PDF)のP42~43にある

<コラム16:顧客本位の業務運営に関する販売会社の取組状況

 金融庁は、金融機関における顧客本位の業務運営を促進するため、2023年6月、「リスク性金融商品の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果 」を公表した。本レポートでは、モニタリングで認められた販売会社の課題等を示しており、主なものを以下のとおり整理した。

(1)略

(2)リスク性金融商品の販売・管理態勢

①(略)

販売会社は、運用・保障・相続等の顧客ニーズを的確に把握し、外貨建一時払保険がそのニーズに最適な商品かを検証した上で、顧客に対して、商品の特徴やリスク特性等を丁寧に説明する必要がある。また、商品性を十分に理解できる顧客に対し、長期保有を前提に提案・販売する必要がある。しかしながら、多くの重点先で、目的別の販売において以下の課題が認められた。

販売目的  販売態勢面の課題
運用    リスク・リターン・コスト等に関し、他金融商品との比較説明を未実施

保障    目標到達型保険で、目標到達後に保険を解約させて保障期間を断絶

相続    非課税枠を大きく超える保険金等の額を契約時に設定

(3)従業員に対する適切な動機付け
 販売会社が顧客本位の業務運営を推進するためには、営業職員が「取組方針」に則した行動を促す業績評価となっているか、業績評価の改定によって営業現場の行動がどのように変化しているか等について、第1線はもとより、経営陣や第2線・第3線が継続的に検証する必要がある。

 しかし、多くの重点先で、「取組方針」で、収益に偏重しない業績評価体系とすることで顧客本位のコンサルティングを行う旨を掲げているにもかかわらず、販売手数料の高い外貨建一時払保険や仕組債の販売に係る個人評価のウェイトが高いため、営業現場がこれらの商品へ販売に傾注していた。

 また、販売会社が真の顧客ニーズに即した金融商品を提案するためには、営業職員に対して提案に必要な専門性を身に付けさせることができる研修や人事制度の整備が必要である。仮に、それができない場合には、営業職員の経験等を考慮し、金融商品を現状の職員の説明能力で販売できる範囲に限定する必要がある。

 しかし、多くの重点先で、研修が形式的にとどまっていたほか、一部の先で、取扱商品の多さから、営業職員が商品性を十分に理解していない懸念が窺われた。

 金融庁は、販売会社が、創意工夫を発揮し、それぞれのベストプラクティスを目指して、顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供を競い合うことを期待している。今事務年度も、販売会社にこうした取組を促すとともに、顧客の最善の利益を追求する販売・管理態勢が構築できているか等について、モニタリングしていく。>

ではないかと推測しています。

【記事の内容】
以下、日経の記事の内容です。

-日本経済新聞 2023年9月28日朝刊-

【金融庁、外貨建保険にメス 販売体制を問題視】

 金融庁は銀行や証券会社の外貨建一時払い保険の販売について実態調査に乗り出す。他の金融商品との比較説明などが不十分で、売れば売るほど営業担当者の人事評価や給与が高くなる体系にも問題があるとみている。調査で具体的な問題が見つかれば、金融機関側に販売や評価体系の見直しを促す。

 調査は銀行・証券会社と生命保険会社の双方を対象とし、時期を分けて行う。2023年末ごろまでは、販売動向などをリスクベースで選定した銀行・証券会社数十社程度に対し、アンケート調査や対話によるヒアリングを重点的に実施する。年明け以降をめどに、生保各社の取り組みの状況を確認する。金融庁は生保各社に契約件数や中途解約率などデータの提供を依頼している。

 外貨建保険は顧客から預かった保険料を米ドル建てや豪ドルなどの外貨で運用する。海外の金利が日本より相対的に高ければ資産運用の効果も大きくなる。半面、為替変動でリターンが減ったり、円換算後に元本割れしたりするリスクをはらむ※。

<※管理人補足:外貨建保険は契約者が払い込んだ保険料(円)を外貨に換えて、死亡保障または死亡・高度障害保障を米ドルや豪ドルで確保します。積立利率や予定利率が高いと、解約返戻率も高くなります。

ただし、為替が円高に振れて、契約時のレートよりも円高になると円換算時の保障額や解約返戻金額が減少します。逆に契約時のレートよりも円安が進むと、円換算時の保障額や解約返戻金額が増加します。

なお、保険料を月払い等で支払う外貨建保険の場合、為替が円安に振れると支払保険料も増えて、負担が増します。10年または15年で保険料を払い終える外貨建保険を「学資目的」で契約していると、為替が円安に振れて保険料の負担が重くなり、保険料の払い込み終了前に解約してしまうケースもあります。

外貨建保険は「為替の影響」という不確実性を内包しているので、保障を確保する手段として必要なのかを慎重に判断してください。>

 外貨建一時払い保険は銀行窓口での販売は大半を占める。米欧の金利上昇を受けたニーズもあり、22年度の銀行窓口における販売額は前の年度比8割増の約3兆9000億円だった。23年度は円建の販売も伸びているが、5月末時点では外貨建も前年同期比プラスで推移している。

 販売額が増える一方、一時払い保険の預かり資産残高はここ数年横ばいで推移している。金融庁がアンケートを実施回答を得た先を集計したところ、主要行などで15兆~16兆円、地銀で11兆~13兆円となっている。販売増加額や解約率、保険全体の販売額に占める割合も金融機関によって大きく異なる。

 金融庁は販売・管理体制に課題が多いとみている。「運用目的で販売したが、他のリスク性金融商品とのリターン・コストなどの比較説明がなされていない」「保障目的で目標到達型の保険を販売したが、目標到達後に保険を解約させて保険期間を途絶えさせている」といったものだ。

 顧客より自らの収益を重視するような業績評価体系にも懸念を抱いている。保険販売に占める外貨建て一時払い保険の販売割合がほぼ10割の銀行では、外貨が円貨に比べ2.5~4倍の業績評価が設定されているケースがあった。適合性原則に照らして問題がある場合は改善を求める。

 銀行・証券会社と生保による販売後の顧客へのアフターフォローが十分かどうかもチェックする。一部の地銀からは「顧客の運用成果などの必要な情報を生保から受け取っておらず、サポートができない」といった声もある。時期を分けて調査することで双方の意見を精査する。

 政府が「貯蓄から投資」を掲げる中、外貨建て一時払い保険に限らず金融商品の適切な販売・管理体制の構築は重要な課題だ。商品を組成する側にも事前にどういった顧客を想定しているのかを定義し、販売を委託する責任がある。

 高リスクで複雑な仕組み債を巡っては千葉銀行など3社が業務改善命令を受けた。顧客の知識や投資目的などを把握せずに勧誘・販売するなど、投資家保護の体制に重大な欠陥が見つかった。

 今回の外貨建て一時払い保険の実態調査でも「契約者保護において重大な不備が見つかれば、行政処分を出す可能性はある」(金融庁幹部)。金融庁はリスク性金融商品の販売を含めたリテールビジネスへの経営陣の関与状況・姿勢についてモニタリングする方針だ。

 金融機関には今後、顧客の最善の利益を追求することが法律で義務づけられる見通しだ。なぜその金融商品が顧客にとって最適なのか、他商品との比較や顧客のニーズ・知識を踏まえた説明・販売後のフォローがより一層求められる。

以上です。

↑花から花へ移動するアオスジアゲハ(4月撮影)。

がん診断給付金の支払いを巡る裁定事案。

生命保険協会が取りまとめた、令和5年4~6月の裁定概要集(PDF)に、がん診断給付金の支払いを巡る裁定事案がありました。

裁定概要集によりますと、事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。

<事案の概要>
 約款に定める支払事由に該当しないことを理由に、がん診断給付金が支払われなかったことを不服として、給付金の支払いを求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 卵巣漿液性境界悪性腫瘍に罹患し子宮全摘出および子宮付属器腫瘍摘出の手術を受けたため、平成27年9月に乗合代理店を通じて契約した医療保険にもとづき、がん診断給付金を請求したところ、約款に定める支払事由に該当しないことを理由に支払われなかった。しかし、以下等の理由により、がん診断給付金を支払ってほしい。

(1)他の保険会社に「卵巣漿液性境界悪性腫瘍」と診断名を伝え、がん保険に加入できるかを問い合わせた結果、がんの既往歴があるため加入できないと言われた。

(2)主治医からもがん患者と認められており、両方の卵巣および子宮を摘出し、間違いなくがんである旨の説明を受けた。

…この事案は裁定終了となっています。

申立人が罹患したのは、卵巣がんの大半を占める上皮性腫瘍の一種です。ではどうして支払対象外なのか?「卵巣境界悪性腫瘍―最近の考え方 京都大学医学部附属病院病理診断部 三上 芳喜」によりますと、

<境界悪性腫瘍とは臨床病理学的概念であり、予後の観点から良性と悪性の中間に位置づけられる腫瘍群である。…>

とありました。

<保険会社の主張>を読むと、以前このBlogで取り上げた類内膜境界悪性腫瘍のケースと同様、本疾患も約款が準拠するICD-10基本分類コードの、「女性生殖器の悪性新生物」「卵巣の悪性新生物」や「上皮内新生物」に該当しません。

これでは保険会社は給付金を支払うことはできません。

【裁定事案の内容】

以下、裁定事案の内容です(令和5年4~6月裁定概要集P34~35より転載)。

[事案2022-278]がん診断給付金支払請求
・令和5年6月12日 裁定終了

<事案の概要>
 約款に定める支払事由に該当しないことを理由に、がん診断給付金が支払われなかったことを不服として、給付金の支払いを求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 卵巣漿液性境界悪性腫瘍に罹患し子宮全摘出および子宮付属器腫瘍摘出の手術を受けたため、平成27年9月に乗合代理店を通じて契約した医療保険にもとづき、がん診断給付金を請求したところ、約款に定める支払事由に該当しないことを理由に支払われなかった。しかし、以下等の理由により、がん診断給付金を支払ってほしい。

(1)他の保険会社に「卵巣漿液性境界悪性腫瘍」と診断名を伝え、がん保険に加入できるかを問い合わせた結果、がんの既往歴があるため加入できないと言われた。

(2)主治医からもがん患者と認められており、両方の卵巣および子宮を摘出し、間違いなくがんである旨の説明を受けた。

<保険会社の主張>
 以下等の理由により、申立人の請求に応じることはできない。

(1)申立人の疾患は、約款に定める支払事由であるICD-10(2003年版)準拠の基本分類コードC51~58(女性生殖器の悪性新生物)におけるC56(卵巣の悪性新生物)もしくはD00~D09(上皮内新生物)に該当しない。

(2)申立人が受けた手術は、「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン(2020年版)」における当該傷病の基本術式である。

<裁定の概要>
1.裁定手続
 裁定審査会は、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、和解を相当とする事情の有無を確認するため、申立人に対して事情聴取を行った。

2.裁定結果
 上記手続の結果、がん診断給付金の支払は認められず、その他保険会社に指摘すべき特段の個別事情も見出せないことから、和解による解決の見込みがないと判断して、手続を終了した。

以上です。

↑越冬明けのクロコノマチョウ・秋型(4月撮影)。