コロナ保障特化の保険商品の誤算。収支悪化、短期間で新規引き受け停止、モラルリスクの疑い。

4月12日の日本経済新聞朝刊に、新型コロナウイルス感染症に特化した保険商品などの動向に関する記事がありました。

記事によりますと、

< 新型コロナウイルス禍で需要が高まったコロナ保険が苦境に陥っている。保険スタートアップのジャストインケース(東京・中央)が既契約の入院給付金を従来の1割に減らす異例の対応に踏み切ったほか、大手保険会社による販売停止や保険料引き上げが相次ぐ。想定以上に感染者が膨らみ、保険収支が悪化したためだ。ニーズをとらえた商品投入を急いだものの、需要予測など商品設計が甘くなり、不十分な金融商品になった可能性がある。>

とのことです。

【管理人の感想】
収支の悪化による保障内容変更、モラルリスクの疑い、短期間で新規契約の引き受け停止、保険料引き上げーと、新型コロナウイルス感染症に特化した、あるいは重点を置いた保険商品を投入した保険会社に誤算があったようです。

保守的に基礎率を設定したはずなのに、短期間での引き受け停止などの事態を招いたとなると、新型感染症に特化した、あるいは保障の重点を置いた保険商品は保険契約として成立させることが困難なのかもしれません。

ただ、モラルリスクの疑いは、保険会社の考えが甘すぎたとしか言いようがありません。

【記事の内容】
以下、日経の記事の内容です。

-日本経済新聞 2022年4月12日朝刊-

【コロナ保険、際立つ苦境-給付削減や新規契約停止も】
新型コロナウイルス禍で需要が高まったコロナ保険が苦境に陥っている。保険スタートアップのジャストインケース(東京・中央)が既契約の入院給付金を従来の1割に減らす異例の対応に踏み切ったほか、大手保険会社による販売停止や保険料引き上げが相次ぐ。想定以上に感染者が膨らみ、保険収支が悪化したためだ。ニーズをとらえた商品投入を急いだものの、需要予測など商品設計が甘くなり、不十分な金融商品になった可能性がある。

「大変申し訳ございません。当社の予測が甘かったことに尽きます」。ジャストインケースの畑和寿也社長は6日、ホームページ上でコメントを出した。7日以降に入院を始めた契約者への入院給付金を従来の1割に引き下げたことへの謝罪だ。

具体的にはコロナ罹患時の入院の定義を大きく2つに分ける。自宅やホテルでの療養である「みなし入院」の場合、入院給付金は従来の1割になる。一方、医療機関で1泊2日以上の入院をした場合は1割に減らした入院給付金とは別の9割分を見舞金として支払う。療養場所によって給付金に格差をつけた。

保障内容を変えたのは、保険金請求の殺到で保険収支が大幅に悪化したためだ。3月の保険料収入が3000万円程度に対し、保険金支払いは1億8000万円程度になった模様。2月に1日10万人に迫る勢いで増えた国内のコロナ感染のスピードを読み誤った。3月10日までは加入から2週間の免責期間を設けておらず、コロナに感染してから保険申請した不正加入も発生したとみられる。

ジャストインケースは約款に「保険期間中に当社の収支が悪化し、保険料の計算基礎に著しく影響を及ぼす事象が発生した場合は、保険期間中に保険料の増額または保険金額の減額をすることがある」と記載している。3月に新規契約を停止していたが、それでも収支悪化に歯止めがかからず、契約済みの加入者に訴求して保障内容を引き下げる異例の措置に踏み切った。

契約者からは「過去の保険料を返金しないのか」などの声が上がる。ジャストインケースは顧客サポートの人員を3人から9人に増やし、4月に解約を申し出た契約者については4月分の保険料を返金する方向だ。金融庁は「顧客対応を徹底してほしい」(幹部)という。

ジャストインケースは複数の契約者が保険料を出し合ってプールし、そこから保険金を支払うピア・ツー・ピア(P2P)保険を作るのを得意として来た。P2Pのコロナ保険なら保険料の範囲内でしか保険金を払わない仕組みにできたはず。だが、P2P保険として開発するには金融庁との折衝などに時間がかかる。市場への投入を優先し、従来の少額短期保険として発売したことが失敗の一因となった。

需要予測を見誤ったのは大手も同じだ。日本生命保険傘下の大樹生命は2月4日、販売開始から約1ヵゲッツハンデ新型コロナウイルを含む感染症で入院すると10万円の一時金を受け取れる保険「おまもリーフ」の新規販売を停止した。販売再開は未定だ。

損害保険ジャパンがスマートフォン決済「Pay Pay(ペイペイ)」のアプリ内で販売するコロナ保険は2月10日から3ヵ月分を3倍の1500円に値上げした。同社は「感染の急拡大や保険金支払い増によっては、新規契約者の保険料をさらに上げる可能性がある」と指摘する。

コロナ保険はどうすれば需要と供給のバランスをとれたのか。参考になるのが、第一生命保険グループの第一スマート少額短期保険の商品設計だ。同社は月々の感染状況に応じて保険料が変動する「ダイナミックプライシング」を導入している。21年4月時点では890~2270円だったが、22年4月時点では870~2万円と価格幅が広がった。価格を柔軟に動かすことで採算を管理し、P2P保険に近い仕組みを実現した。

実は新型コロナが理由の入院や投薬、検査費用は平均的な所得なら全額公的負担となる。にもかかわらず、コロナ保険を保険各社が競って販売したのは、保険離れが顕著な若年層など新たな顧客層を開拓できるとの思惑があった。本当に必要な保険は何なのか。コロナ保険騒動は保険各社にこうした問いを突き付けている。

以上です。

↑、3月に撮影した彼岸桜。

がん保険の手術給付金の支払を巡る裁定事案。

生命保険協会が取りまとめた令和3年10~12月の裁定概要集(PDF)に、がん保険の手術給付金の支払を巡る裁定事案がありました。

裁定概要集によりますと、事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。

<事案の概要>
約款の支払事由に該当しないことを理由に、手術給付金が支払われないことを不服として、給付金の支払を求めて申立てがあったもの。

<申立人の主張>
乳がんに対する電磁波温熱療法を受けたことから、平成17年11月及び平成19年2月に契約した2件のがん保険にもとづき、手術給付金を請求したところ、約款の支払事由に該当しないとして支払われなかったが、以下の理由により、給付金を今後も継続的に支払ってほしい。

(1)保険会社は、「画像診断の結果のみ」で、約款非該当の判断をしているが、本疾病は再発進行がんで、がんは治っておらず、抗がん剤の治療は完了したのではなく、あくまで休薬しているのみであり、がんがcCR(触診しても腫瘤が触れず、画像検査でも腫瘍の消失が確認された状態のこと)の状態を保っているのも、本療法を続けていることが功を奏しているからである。

(2)がん細胞自体が消失してはおらず、がんがあるであろう場所については、医師もその旨理解している。

…この事案は既に和解が成立しています。

電磁波温熱療法とは、がんが熱に弱いことを利用した治療法で、がん温熱治療装置を用いて体外から癌病変を42~43度に加熱します。加熱された腫瘍は死滅します(血管を拡張させて熱を逃がすことができないため)。

この療法で免疫力が高まる効果が報告されています。また、この療法は放射線治療や化学療法の効果を高めることもでき、放射線治療や化学療法との併用でさらに効果が高まるそうです。

さて、申立人の治療内容ですが、どうも腫瘍を消滅・縮小させるための治療ではないようです。そうなると、約款に定める「治療を直接の目的とする手術」には該当しないため、保険会社は支払うことができないですね。

【事案の内容】
以下、裁定事案の内容です(令和3年10~12月裁定概要集・P37~38より転載)。

[事案2020-345]手術給付金支払請求
・令和3年11月10日 和解成立

<事案の概要>
約款の支払事由に該当しないことを理由に、手術給付金が支払われないことを不服として、給付金の支払を求めて申立てがあったもの。

<申立人の主張>
乳がんに対する電磁波温熱療法を受けたことから、平成17年11月及び平成19年2月に契約した2件のがん保険にもとづき、手術給付金を請求したところ、約款の支払事由に該当しないとして支払われなかったが、以下の理由により、給付金を今後も継続的に支払ってほしい。

(1)保険会社は、「画像診断の結果のみ」で、約款非該当の判断をしているが、本疾病は再発進行がんで、がんは治っておらず、抗がん剤の治療は完了したのではなく、あくまで休薬しているのみであり、がんがcCR(触診しても腫瘤が触れず、画像検査でも腫瘍の消失が確認された状態のこと)の状態を保っているのも、本療法を続けていることが功を奏しているからである。

(2)がん細胞自体が消失してはおらず、がんがあるであろう場所については、医師もその旨理解している。

<保険会社の主張>
以下の理由により、申立人の請求に応じることはできない。

(1)申立人には現在がんの再発や転移はなく、電磁波温熱療法は、再発予防を目的としたものにすぎず、約款の支払事由(治療を直接の目的とする手術)を充足するものではない。

(2)当社は、「画像診断のみ」で約款非該当とは判断していない。

<裁定の概要>
1.裁定手続
裁定審査会は、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、申立人の主張等を把握するため、申立人に事情聴取を行った。また、独自に外部の専門医の意見を求め医学的判断の参考にした。

2.裁定結果
上記手続きの結果、手術給付金の支払は認められないが、本件は和解により解決を図るのが相当であると判断し、和解案を当事者双方に提示し、その受諾を勧告したところ、同意が得られたので、手続きを終了した。

以上です。

↑、染井吉野で吸蜜中のヨコヅナサシガメの幼虫(3月撮影)。

アフラックの第3四半期業績。

2月14日、アフラック生命保険はHPにて、第3四半期業績を発表*しました。

*詳しくはこちらをどうぞ。

  • 2/14・ニュースリリース 2021年度第3四半期報告(PDF)

    【管理人の感想】
    1.保有契約は減少続く

    個人保険+個人年金保険の保有契約件数は、前年同期末比で減少していました。また、がん保険と医療保険の保有契約件数も前年同期末比で減少していました。

    新契約件数では改善傾向がみられるものの、保有契約件数を回復させるまでには至っていないことが伺えます。

    2.新契約は医療保険がけん引
    新契約件数は、がん保険は前年年度同期比98.7%と伸びなかったものの、医療保険が前年同期比128.8%と二桁の増加でした。このこともあって、個人保険+個人年金保険の新契約件数は104.9%と今期も改善傾向がみられました。

    【主要業績の内容】
    以下、アフラックの主要業績の内容です(上記ニュースリリースより抜粋・転載)。

    〇保有契約件数 ( )内は前年度実績
    ・個人保険…2349万件 (2392万7000件)

    ・個人年金保険…32万5000件 (32万7000件)

    ・個人保険+個人年金保険…2381万5000件 (2425万5000件)

    うちがん保険…1508万9000件 (1539万7000件)

    うち医療保険…578万9000件 (587万4000件)

    〇新契約件数
    ・個人保険…61万6000件 前年同期比104.9%

    うちがん保険…37万件 前年同期比92.3%

    うち医療保険…18万9000件 前年同期比128.8%

    〇年換算保険料
    1)保有契約 ( )内は前年度実績

    ・個人保険…1兆2763億円 (1兆3030億円)

    ・個人年金保険…894億円 (883億円)

    ・個人保険+個人年金保険…1兆3657億円 (1兆3913億円)

    うち医療保障・生前給付保障等…1兆336億円 (1兆524億円)

    2)新契約
    ・個人保険…365億円 前年同期比112.7%

    ・個人保険+個人年金保険…365億円 前年同期比112.7%

    うち医療保障・生前給付保障等…332億円 前年同期比113.9%

    〇保険料等収入、保険金等支払金、四半期純利益
    ・保険料等収入…9916億円 前年同期比96.5%

    ・保険金等支払金…5990億円

    ・四半期純利益…1898億円 前年同期比114.8%

    〇基礎利益、ソルベンシー・マージン比率 ( )内は前年度数値
    ・基礎利益…2698億円 前年同期比110.3%

    ・ソルベンシー・マージン比率…1006.2% (959.8%)

    以上です。

↑、道端の小栴檀草で眠るヤマトシジミ(3月撮影)。

 

オリックス生命の第3四半期業績。

2月14日、オリックス生命保険はHPにて、2021年度第3四半期業績を発表*しました。

*詳しくはこちらをどうぞ。

  • 2/14・プレスリリース 2021年度第3四半期報告(PDF)

    【管理人の感想】
    1.保有契約は堅調に増加

    個人保険の保有契約件数・契約高・年換算保険料はいずれも前年同期末比で増加していました。

    また、医療保障・生前給付保障等の保有契約年換算保険料は、前年同期末比でこちらも増加していました。

    今季も保有契約は堅調に増加したことがうかがえます。

    2.新契約は大幅減
    個人保険の新契約件数・契約高・年換算保険料は前年同期比で68.8%、56%、68.9%と大幅減でした。米ドル建終身保険の料率改定前における「駆け込み契約」の反動もあり、死亡保障の新契約が低迷したことがうかがえます。

    また、医療保障・生前給付保障等の新契約年換算保険料は、前年同期比で59.1%とこちらも大幅減でした。

    死亡保障・第三分野とも新契約が不調だったことがうかがえます。

    【主要業績の内容】
    以下、オリックス生命の主要業績の内容です(上記プレスリリースより抜粋・転載)。

    〇保有契約 ( )内は前年度実績
    1)件数

    ・個人保険…486万1000件 (473万4000件)

    ・個人年金保険…9万9000件 (10万9000件)

    2)契約高
    ・個人保険…14兆1738億円 (13兆9266億円)

    ・個人年金保険…3383億円 (4085億円)

    ・団体保険…7300億円 (6764億円)

    〇新契約
    1)件数

    ・個人保険…24万9000件 前年同期比68.8%

    2)契約高
    ・個人保険…7705億円 前年同期比56%

    〇年換算保険料
    1)保有契約 ( )内は前年度実績

    ・個人保険…3285億円 (3141億円)

    ・個人年金保険…440億円 (467億円)

    ・個人保険+個人年金保険…3726億円 (3608億円)

    うち医療保障・生前給付保障等…2110億円 (2023億円)

    2)新契約
    ・個人保険…216億円 前年同期比68.9%

    ・個人保険+個人年金保険…216億円 前年同期比68.9%

    うち医療保障・生前給付保障等…134億円 前年同期比59.1%

    〇保険料等収入、保険金等支払金、当期純利益 ( )内は前年度実績。▲はマイナス
    ・保険料等収入…3268億円 前年同期比85.4%

    ・保険金等支払金…1850億円 前年同期比109.4%

    ・当期純利益…▲34億円 (▲93億円)

    〇基礎利益、ソルベンシー・マージン比率 ( )内は前年度実績および数値。▲はマイナス
    ・基礎利益…▲1億円 (▲157億円)

    ・ソルベンシー・マージン比率…1396.4% (1439.4%)

    以上です。

 

↑フキノトウで吸蜜するモンキチョウ(3月撮影)。