保険会社向けの総合的な監督指針の一部改正が波紋?-日経報道。

12月29日付の日本経済新聞・朝刊に、28日をもって適用された、保険会社向けの総合的な監督指針の一部改正*に関する記事がありました。

*詳しくはこちらをどうぞ。

12/28・金融庁報道発表資料 「保険会社向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について

記事によりますと、

< 金融庁は生命保険の販売時に年金や健康保険といった公的保険制度について顧客に適切に情報提供するよう生命保険会社に求める。28日に生保の営業手法に関する監督指針を改正した。生保各社へのモニタリングも強化し、問題があれば是正を求める。顧客の不安心理をあおって加入させる「過剰契約」を防ぐ狙いだが、「本来は国が説明すべきだ」との声も根強く波紋を呼んでいる。>

とのことです。

【管理人の感想】
金融庁に寄せられたパブリックコメントは34件あり、

「コメント1:これ保険会社向けの監督指針に入れる必要があるのでしょうか?そもそも国の制度を国民に伝えるのは政府や所轄官庁の仕事じゃないですか?

保険会社等はあくまで補完サービスでしかないので筋違いのように思います」

「コメント2:意向確認など、保険募集人やサービスの提供側に公的保険に関する情報提供義務がある変更になっているがそもそも情報の非対称性がある金融商品やサービスにおいて情報提供を義務付けたとしても確実に情報提供を行ったという裏付けにもならず、丁寧に行った説明も簡単に行った説明もどちらも「公的保険に関する情報提供を行った」となるため提供側がやればいいという問題ではないと思う。

公的保険を加味して消費者にとって合理的な金融商品を選んでもらうためならば提供側の努力義務はもちろんだが、義務教育や高等教育を通じて消費者側にも一定のマネーリテラシーの習得をしてもらわなければいつまでもその情報非対称性が解消されず「言われたから」とか「知らなかった」といった不利益を消費者が被ることになる。

したがってこれらの変更は納得がいくが消費者側にも一定の教育機会を設けなければただ形骸化した制度や変更になり、ただただ真面目に情報提供を行っているサービス提供者や募集人の手間が増えるだけだろうと思う。」

「コメント3:公的保険制度についての情報提供を適切に行うとあるが、これは保険会社や募集人が行うものなのだろうか?

国の公的保障制度は教育現場で国家が国民に周知すべきことではないでしょうか?

もちろん、保険販売の現場では公的保障制度を理解していない募集人が、自らの成約ありきで保険商品の説明に終始することもあるかもしれません。

ただ良識あり保険営業の仕事にプライドを持っている募集人の多くは、公的保障制度の案内をしつつ不足分を保険で賄うか、それとも自助努力で賄うかという提案をしています。

つまりもし今回の改正がなされても、単に書類上での説明を完了したとすることにしても、実態としては変わることは考えにくく実効性は限りになく少ないと考えます。」

「コメント21:(総論)各保険会社によって商品種類や募集チャネル等は様々であり、また、複数の公的保険制度がある中、対応にあたっては一定の準備期間を要する。よって、運用開始日から一律の対応が求められるものではなく、保険種類や募集チャネル等を踏まえて順次対応していくことが求められるもの、という理解でよいか。

今般の監督指針改正では、公的保険制度を補完する保険商品を販売する保険会社として、創意工夫のもと、顧客本位の業務運営を更に進める趣旨で、公的年金をはじめとする公的保険制度にかかる募集人教育や顧客向けの情報提供に関する着眼点を明確化するもの、という理解でよいか。

今般の監督指針改正により対応が求められる公的保険制度については、募集を行う保険商品の種類に応じて、特に関係の強い公的保険制度に関する情報提供が求められているものであり、情報の内容や量については、各保険会社が、提供する商品種類・内容等、自社の事業の特性や募集チャネルを踏まえて、創意工夫を発揮しながら判断して対応すればよい、との理解でよいか。」

「コメント33:乗合代理店の経営者です。

今回の改正案は民間保険会社が公的保障制度の補完を担うという趣旨に則れば、大変意義のあることだと思いました。

改正後は、恐らくはプリンシプルベースで個社ごとに創意工夫をすることになるかと思います。例えば代理店ごとでFD宣言に盛り込みことや、意向把握義務の一環として項目を追加することなどが考えられますが、死亡保障であれば遺族年金の補完であり、積立型の保険であれば老齢年金の補完であり、障害年金であれば医療保険が補完する商品であることから、保険会社の意向確認書にて新たにチェックボックスを作成いただくことで保険代理店としてはある程度の浸透が図れるのではないかと思うのですがいかがでしょうか。」

など様々でした。パブリックコメントを読む限りでは、今回の監督指針の改正が波紋を呼んでいるとまでは言えないと思っています。

【記事の内容】
以下、日経の記事の内容です。

-日本経済新聞 2021年12月29日朝刊-

【生保販売、新指針が波紋】
金融庁は生命保険の販売時に年金や健康保険といった公的保険制度について顧客に適切に情報提供するよう生命保険会社に求める。28日に生保の営業手法に関する監督指針を改正した。生保各社へのモニタリングも強化し、問題があれば是正を求める。顧客の不安心理をあおって加入させる「過剰契約」を防ぐ狙いだが、「本来は国が説明すべきだ」との声も根強く波紋を呼んでいる。

金融庁は保険会社向けの監督指針に新たに「公的年金の受取試算額などの公的保険制度についての情報提供を適切に行う」といった規定を盛り込んだ。顧客が自身の将来のリスクや民間保険の必要性を適切に理解した上で加入の要否を判断できるようにするためだ。これまで指針に公的保障の説明を求める規定はなかった。

更に指針は、民間保険を「公的保険を補完する」と位置付けた。保険の募集人自身が公的保障の仕組みを十分に理解しておくことが必要だとし、保険会社に「適切な理解を確保するための十分な教育」も求めた。

少子高齢化が進み、公的年金の受給開始年齢が引き上げられるのに伴い、定年退職後の生活資金に不安を感じる人は多い。このため生保業界は貯蓄性の保険や医療保険といった民間保険の販売を充実させている。

生保営業では、契約しやすい特定の相手から多数の契約を獲得することが問題視されている。大樹生命保険では元営業社員が一家族に対し19年間で累計46件の契約を結んだケースが発覚。かんぽ生命保険で明るみになった不正販売でも高齢者が狙われた。

金融庁は特に「あおり営業」に疑念の目を向ける。「将来は年金がどうなるかわからない」と不安をあおる一方、がんになった場合に負担を軽減できる公的な高額療養費制度があることを説明しなかったり、限られた情報しか提供しなかったりしたといった営業手法だ。

今後は、保険会社や募集人は公的保障の仕組みを正確に理解した上で、顧客のライフプラン、公的年金の受取試算額、必要となる保険の中身を丁寧に説明することが求められる。金融庁は実態把握に向けたモニタリングも強化し、説明が不十分な場合は是正を促す方針だ。

指針改正に友のない、生命保険協会も自主ガイドラインを改定し、募集人への教育や研修を充実させるなどの体制整備を進める方向だ。

ただ、業界内には「公的保険の仕組みは本来国や自治体が周知すべきではないか」、「我々に説明させるのは筋が通らない」といった声もすくぶる。金融庁は2022年に厚生労働省と連携して公的保険制度について説明するポータルサイトを作る。厚労省は個人の年金を「見える化」するため22年度から公的年金の受取試算額をインターネット上で簡単に閲覧できるようにする。

不安をあおって過剰な契約を結ばせるのは顧客本位の業務運営とは言い方が、不安の根底にある公的年金制度への根強い不信感にも同時目を向ける必要がある。

以上です。

↑道端の韮にやってきたキタテハ・夏型(昨年9月撮影)。

 

重大事由による契約解除を巡る裁定事案。

生命保険協会が取りまとめた令和3年7~9月の裁定概要集(PDF)に、重大事由による契約解除を巡る裁定事案がありました。

裁定概要集によりますと、事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。

<事案の概要>
重大事由による契約解除を不服として、契約解除の取消しと先進医療給付金の支払を求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
令和元年11月に白内障により、多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術を受けたため、令和元年5月に契約した医療保険の先進医療特約にもとづき先進医療給付金を請求したところ、告知義務違反および他社契約含め5社に重複して加入していることから重大事由に該当するとして契約が解除された。しかし、以下の理由により、契約解除を取り消して、給付金を支払ってほしい。

(1)5社の先進医療特約は、代理店の同じ募集人からほぼ同時に加入したものであり、重大事由に該当するというのであれば、契約時に募集人がその旨を伝えるべきである。

(2)5社に分散して加入した理由は、保険料と保障内容を分散させるためである。

…この事案は既に裁定打ち切りとなっています。

多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術は、2020年3月末をもって先進医療から除外され選定療養(レンズ代が患者の自己負担になります)となっており、現在は先進医療特約の保障外です。

生命保険の医療保障は治療費の自己負担を軽減するためのものです。5社にわたってほぼ同時期に加入し、先進医療も付加するとは…保険本来の役割から逸脱していると思います。

また、募集人はなぜそのような契約を獲得したのか理解に苦しみます。所属している代理店もなぜ指摘しなかったのか?

今回の重大事由による契約解除の判断は妥当だと思います。

<事案の内容>
以下、裁定事案の内容です(令和3年7~9月裁定概要集・P44~45より転載)。

[事案2020-296]契約解除取消請求
・令和3年9月16日 裁定打切り

<事案の概要>
重大事由による契約解除を不服として、契約解除の取消しと先進医療給付金の支払を求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
令和元年11月に白内障により、多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術を受けたため、令和元年5月に契約した医療保険の先進医療特約にもとづき先進医療給付金を請求したところ、告知義務違反および他社契約含め5社に重複して加入していることから重大事由に該当するとして契約が解除された。しかし、以下の理由により、契約解除を取り消して、給付金を支払ってほしい。

(1)5社の先進医療特約は、代理店の同じ募集人からほぼ同時に加入したものであり、重大事由に該当するというのであれば、契約時に募集人がその旨を伝えるべきである。

(2)5社に分散して加入した理由は、保険料と保障内容を分散させるためである。

<保険会社の主張>
以下の理由により、申立人の請求に応じることはできない。

(1)申立人は、当社以外の4社から先進医療給付金を受け取っており。治療費の実学の約4倍の給付を受けている。これは先進医療保障を目的とする経済的負担軽減の範囲を超えるものであるほか、投機的行為と言え、先進医療保障制度の目的に反する。

(2)同時契約時に重大事由の該当について指摘すべきという申立人の意見は否定しないが、解除権行使を妨げるものではない。

(3)先進医療給付金は、重大事由発生以後に支払事由が発生した場合は支払わない旨が約款に記載されている。契約日の時点で先進医療の付保が5件に及んでおり、この時点で重大事由が生じたため、給付金は支払えない。

<裁定の概要>
1.裁定手続
裁定審査会は、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、契約時の状況等を把握するため、申立人及び募集人に対して事情聴取を行った。

2.裁定結果
上記手続の結果、本件を判断するためには、契約者の実際の収入及び生活状況、支払保険料の合計額、他社契約全ての給付金の支払履歴及び給付金の妥当性、各契約の加入の経緯ならびに保険契約の有無及び支払限度額等を総合的に勘案して判断しなければならず、これらの事情を明らかにするためには、第三者に対する文書送付食卓または文書提出命令あるいは尋問等の手続きが必要となるところ、当審査会はこのような手続きを有していないため、裁定手続を打ち切ることとした。

以上です。

道端の韮で吸蜜中のツマグロヒョウモン・♂(昨年8月撮影)。

入院給付金等の支払いを巡る裁定事案。

生命保険協会が取りまとめた、令和3年7~9月の裁定概要集(PDF)に、入院給付金等の支払いを巡る裁定事案がありました。

裁定概要集によりますと、事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。

<事案の概要>
保険期間満了を理由に、入院給付金等が支払われなかったことを不服として、給付金の支払を求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
平成30年12月に前立腺の生検のために入院し、その後前立腺悪性腫瘍のため、平成31年3月から4月まで入院して手術を受けたことから、平成18年12月に契約した終身保険の入院特約等にもとづき入院給付金等を請求したところ、特約の保険期間満了後の入院・手術であることなどを理由として、給付金等が支払われなかった。しかし、以下の理由により、入院給付金等を支払ってほしい。

(1)約款では、生検で得られない場合にはほかの診断確定も認めることがあると記載されている。

また、生検による診断結果日ががんの発症日になるとの説明は受けていない。

(2)自分の場合は、生検によるがんの診断確定より90日前に、前立腺がんが発症していると考えるべきである。

(3)保険期間満了前に前立腺がんに罹患しているのであるから、以降の入院、手術等の全てについて、保険会社は給付金を支払うべきである。

…この事案は既に裁定が終了しています。

<保険会社の主張>によると、主契約の保険料払込期間までに、特約保険料の払い込みがなかったことで三大疾病保障定期保険特約は保険期間満了となり、その他の特約も約款にもとづいて終了となったようです。

特約の保障がすべて終了となった後に前立腺がんに罹患したのですから、残念ながら支払うことはできませんね。

【裁定事案の内容】
以下、裁定事案の内容です(令和3年7~9月裁定概要集・P29~30より転載)。

[事案2020-258]入院給付金等支払請求
・令和3年7月7日 裁定終了

<事案の概要>
保険期間満了を理由に、入院給付金等が支払われなかったことを不服として、給付金の支払を求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
平成30年12月に前立腺の生検のために入院し、その後前立腺悪性腫瘍のため、平成31年3月から4月まで入院して手術を受けたことから、平成18年12月に契約した終身保険の入院特約等にもとづき入院給付金等を請求したところ、特約の保険期間満了後の入院・手術であることなどを理由として、給付金等が支払われなかった。しかし、以下の理由により、入院給付金等を支払ってほしい。

(1)約款では、生検で得られない場合にはほかの診断確定も認めることがあると記載されている。

また、生検による診断結果日ががんの発症日になるとの説明は受けていない。

(2)自分の場合は、生検によるがんの診断確定より90日前に、前立腺がんが発症していると考えるべきである。

(3)保険期間満了前に前立腺がんに罹患しているのであるから、以降の入院、手術等の全てについて、保険会社は給付金を支払うべきである。

<保険会社の主張>
以下の理由により、申立人の請求に応じることはできない。

(1)主契約の保険料払込期間(平成30年11月)までに特約保険料の払込みがなかったことから、3大疾病保障定期保険特約は同日をもって保険期間満了で終了し、その他の特約についても本契約の約款上、同日に終了した。

(2)申立人の入院および手術は、いずれも「特約の保険期間中」の入院および手術には該当しないため、給付金の支払事由には該当しない。

<裁定の概要>
1.裁定手続
裁定審査会は、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、本契約の保険期間満了時の状況等を把握するため、申立人ならびに担当者および上席者に対して事情聴取を行った。

2.裁定結果
上記手続の結果、入院給付金等の支払いは認められず、その他保険会社に指摘すべき特段の個別事情も見出せないことから、和解による解決の見込みがないと判断して、手続を終了した。

以上です。

道端の韮の花粉を食べるアシグロツユムシ・♂(昨年8月撮影)。