マニュライフ生命に業務改善命令。

7月14日、金融庁は外資系生命保険のマニュライフ生命保険に業務改善命令を発出*しました。

*詳しくはこちらをどうぞ。

  • 7/14・新着情報 マニュライフ生命保険株式会社に対する行政処分について

    【管理人の感想】
    金融庁がマニュライフ生命に業務改善命令を出した理由は、法人向けの保険商品の新契約募集において、保険本来の役割から逸脱した「節税目的の保険募集」を行い、その後の税務通達変更の抜け穴をついて不適切な募集を行っていたためです。

    もうね…原因をつくった旧経営陣は我利我利亡者としか言いようがありません。

    【金融庁の公式コメント】
    以下、金融庁の公式コメントの内容です(上記新着情報より抜粋・転載)。

    【マニュライフ生命保険株式会社に対する行政処分について】

    金融庁は、本日、マニュライフ生命保険株式会社(本店:東京都新宿区、法人番号2012401004592、以下、「当社」という。)に対し、下記のとおり業務改善命令を発出した。

    1.業務改善命令の内容
    保険業法第132条第1項に基づく命令(業務改善命令)

    (1)業務の健全かつ適切な運営を確保するため、以下を実施すること。

    ①今回の処分を踏まえた経営責任の明確化

    ②保険本来の趣旨を逸脱するような募集活動による契約の特定、調査等、適切な顧客対応の実施

    ③営業優先ではなく、コンプライアンス・顧客保護を重視する健全な組織風土の醸成

    ④適切な募集管理態勢の確立(代理店に対する十分な牽制機能の構築を含む)

    ⑤適切な商品開発管理態勢の確立

    ⑥上記を着実に実行し、定着を図るためのガバナンスの抜本的な強化

    (2)上記(1)に係る業務の改善計画を令和4年8月15日(月曜)までに提出し、ただちに実行すること。

    (3)上記(2)の改善計画について、当該計画の実施完了までの間、3か月ごとの進捗及び改善状況を翌月15日までに報告すること(初回報告基準日を令和4年9月末とする)。

    2.問題の所在
    当庁検査及び保険業法第128条第1項に基づく当社からの報告の結果、以下の問題が認められた。

    (1)保険本来の趣旨を逸脱するような商品開発及び募集活動
    当庁においては、令和元年2月の国税庁による法人税基本通達の改正に係る保険業界への周知以降、累次にわたり保険本来の趣旨を逸脱するような募集活動を行わないよう注意喚起を行っているほか、同年10月には、「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部を改正し、法人等向け保険商品の設計上の留意点として、「保険本来の趣旨を逸脱するような募集活動につながる商品内容となっていないか」という観点を明確化し、節税(課税の繰り延べ)を訴求した商品開発を含め、同活動を防止するための指針を示している。このような中、当社においては、

    ・法人から個人への名義変更による節税を目的とした名義変更プラン(※注)による販売を推進することを目的として、低解約返戻金型の法人向け商品を開発していく方針が、取締役会等の資料に明示的に記載されていたこと、

    ・前CEO及び前CDO(営業全般の統括責任者)が営業部門の職員等に対して同プランを推進する趣旨の発 言を行っていたと考えられる事実が認められたこと、

    などから、前CEOをはじめとした旧経営陣が主導して同プランを開発・推進していたと認められた。

    (※注)名義変更プランとは、低解約返戻金型定期保険等を活用し、法人から個人(役員等)に名義変更(資産移転)を行うことで、法人と個人の税負担の軽減が可能となる点に着目し、保険期間当初の低解約返戻期間中に法人から個人に名義変更を行い、当該期間経過後に解約することを前提とした保険加入を推奨する手法。

    前専務執行役兼チーフ・ガバナンス・オフィサー(CGO)などの役員についても、同商品の販売が好調である旨の報告を何度も受けており、これらの行為を黙認・看過していたことが強く疑われる実態が認められた。

    現CEOをはじめとした現経営陣が、当庁への報告において「保険本来の趣旨を逸脱するような募集活動」の根絶に向けた再発防止策に取り組んでいる中であるにもかかわらず、当社の職員が法人税基本通達改正及び所得税基本通達改正の抜け穴を突いて、不適切な募集と認識しながら、年金保険を使った名義変更プランを考案・推進するといった悪質性が極めて高い事例が認められた。

    現CEOは、商品開発にあたり、営業部門等からの過度の営業推進を牽制し、早期の段階から新商品案を多角的に検証することができるよう、商品開発において経営層が協議・検討を行う場である商品審議会の構成メンバーにチーフ・コンプライアンス・オフィサー(CCO)等を追加するなど、再発防止策を講じていた。しかしながら、商品審議会は、開発・販売に向けて協議・検討を進めている法人向けの新商品において、課税の繰り延べ効果が高く、税務上有利になる最高解約返戻率が85%以下となる販売パターンのみを想定した商品とするなど、保険本来の趣旨を逸脱するような募集活動につながる懸念が認められる商品を再び設計するとともに、そのような募集活動が行われないための実効性ある対応策を協議・検討していない

    など、極めて不適切な実態が認められた。

    (2)営業優先の企業文化やコンプライアンス、リスク管理を軽視する企業風土
    名義変更募集など「保険本来の趣旨を逸脱するような募集活動」が繰り返し当社において認められる原因には、ガバナンスの機能発揮が不十分であるなどの問題があるほか、その背景には営業優先の企業文化やコンプライアンス、リスク管理を軽視する企業風土があると考えられる。現経営陣は、全職員を対象としたタウンミーティングを令和3年10月以降計11回にわたり実施し、職員との直接対話の機会を増やしたほか、全営業部門職員を対象とした保険募集ルールに係る研修等を実施するなど、企業文化・風土の刷新に取り組んでいるものの、今回検査において令和4年2月から4月にかけて役員等を除く全職員に対し当庁が実施したアンケートによると、名義変更募集については、回答者の約16%もの職員が「法令違反ではないので問題ではない」または「顧客ニーズに合致すれば問題ではない」との認識を未だに回答しているなど、当社の企業風土の刷新に向けた取組は現時点では道半ばの実態にある。

    このため、当社は経営トップのリーダーシップのもと継続的かつ着実に営業優先の文化からの脱却とコンプライアンスやリスク管理を重視する組織風土の醸成を図るとともに、多様な価値観を有する中途入社者が大宗を占める当社の営業部門職員に対する教育や研修体制をより充実させ、営業部門の意識改革に向けた取組を強化していく必要があるなど、営業優先の企業文化やコンプライアンス、リスク管理を軽視する企業風土の刷新に向けた取組は不十分であると認められた。

    (3)上記の他、取締役会は、傘下の監査委員会による取締役及び執行役の業務執行に関する監査において、前CEOらによる名義変更プランの開発・推進を看過しているなど、取締役及び執行役の職務の執行を監督するという基本的な役割及び責任を十分果たしていないという問題や、3ライン・オブ・ディフェンスの各層において保険本来の趣旨を逸脱するような募集活動を防止するための態勢上の問題が認められた。

    3.処分の理由

    (1)上記2.に関して、
    当社が推進していた名義変更プランによる募集は、税負担を軽減することを主たる目的とし、法人から個人への資産移転や短期の中途解約を前提とするなど、経済的保障・補償を行うことにより個人生活や企業経営の安定を支えるという保険本来の趣旨を逸脱し、その目的に沿った利用を損ねる行為であり、公共性を有する保険業の意義を阻害する行為である。また、当社は、そのような募集行為に関して、当庁の累次にわたる注意喚起に加え、国税庁が昨年6月に名義変更プランに使用され得る保険商品を対象とする所得税基本通達改正を実施し、その行為が不適当であることを明確化していた中、その抜け穴をついて、年金保険を利用した名義変更プランによる募集を行い、契約者に対して租税回避的な行為を推奨していた。以上のような当社の一連の行為は保険業に対する信頼を損ないかねず、よって、公益を著しく侵害しているものと認められること、

    前CEOをはじめとした経営陣が名義変更プランによる募集を商品開発段階から主導していた事実を鑑みると、とりわけ旧経営陣の責任は非常に重く、一連の行為には組織性が認められること、

    当庁から、監督指針に照らして問題のある商品の投入について問題提起を行った後にもかかわらず、国税庁の通達改正の影響による販売減少をカバーするために、名義変更プランを前提とした商品開発及び推進を行っているほか、上述のとおり、その後の通達改正の抜け穴をついて、年金保険を利用した名義変更プランによる募集を行うなど、悪質性、故意性も認められること、

    また、契約者の被害の程度については、当社は契約者に対して通達改正の案内の送付や説明等を行っているとしており、現状、多数の苦情が発生している状況ではないが、契約者が実際に名義変更等を行おうとする際に、初めて税務上の効果を享受できなくなったことを認識する場合もあり得ると考えられるため、今後契約者被害が増加する可能性があること、

    など、現状の契約者被害の程度を勘案しても、今回認められた問題の重大性・悪質性は高い。

    (2)取締役会が取締役等の職務執行を監督するという基本的な役割を十分果たしていないといった経営管理態勢上の問題や、3ライン・オブ・ディフェンスによる機能発揮が不十分であるといった業務運営態勢上の問題も生じている。

    (3)現CEOは、再発防止策等を講じるなど、所用の対応に取り組んでいるものの、根本的原因に基づいた実効性のある施策となっていないなど、自主的な改善は十分には期待できない。

    以上より、当社の確実な業務改善計画の実施及び定着を図っていくためには当局の関与が必要と判断し、業務改善命令を発出した。

    以上です。

↑ハナダイコンで吸蜜中のジャコウアゲハ・♂。

 

関東財務局が少額短期保険の株式会社ジャストインケースに業務改善命令。

6月27日、関東財務局は少額短期保険会社の株式会社justInCaseに対して、業務改善命令(経営管理態勢の改善等)を発出*しました。

*詳しくはこちらをどうぞ。

  • 株式会社justInCaseに対する行政処分について

    同社は今年4月に「コロナ助け合い保険(現在新規の契約引き受けは停止中)」で給付金の支払い急増が想定を超えたため、保障内容を変更したことが取り上げられていました。

    「わりかん保険」で一躍注目を集めたのですが、コロナ助け合い保険ではしくじってしまいましたね。

    【公式コメントおよび処分の内容】
    以下、関東財務局の公式コメントと行政処分の内容です(関東財務局ウェブサイトより抜粋・転載)。

    【株式会社justInCaseに対する行政処分について】

    1.株式会社justInCase(本社:東京都中央区。法人番号:1010401128644。以下「当社」という。)は、令和2年5月から、一泊二日以上入院した場合に入院一時金(10万円)を支払い、また新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ感染症」という。)にかかる医療機関以外の自宅や宿泊施設での療養等(以下「みなし入院」という。)に対しても同等の入院一時金(10万円)を支払う「コロナ助け合い保険(シンプル医療保険)」(以下「コロナ保険」という。)の販売を開始している。また、当社においては、コロナ保険について、令和4年1月以降に発生した新型コロナ感染症の感染拡大により、保険金支払いが当初の商品想定を遥かに上回る金額となり、保障内容の維持が困難となったことを理由に、令和4年4月6日、当該保険にかかる当社普通保険約款(以下「約款」という。)の規定に基づき、保険金額を10分の1に減額する旨を公表し、4月7日以降の入院分から適用しているところである(以下「本件保険金の減額払い」という。)。

    ここで、少額短期保険業者は、業務の健全かつ適切な運営を確保していくため、少額短期保険業者自らが様々なリスクを的確に把握・管理し、適切な経営管理のもと、保険引受リスク管理態勢、商品開発に係る内部管理態勢等を構築することが必要である。こうした観点を踏まえ、当社に対し、本件保険金の減額払いに関して保険業法第272条の22第1項の規定に基づき求めた報告内容を検証したところ、本件保険金の減額払いを招いたことに関し、当社の保険引受リスク管理態勢、商品開発に係る内部管理態勢、経営管理態勢について、以下(1)~(3)の問題点が認められた。

    本件保険金の減額払いの実施は、当社の経営判断に基づくものであるが、保険契約者等に重大な影響を及ぼす事態を招いた当社の経営責任は重大であり、当社においては、保険金の減額払いに至ったことについての経営責任を明確にした上で、保険引受リスク管理態勢、商品開発に係る内部管理態勢及び経営管理態勢の改善を図る必要がある。

    (1)保険引受リスク管理態勢
    ・再保険を前提としたリスク管理を行っていたなか、新型コロナ感染症の感染拡大や、それに伴う保険収支の状況等によっては再保険契約の更新に不確実性を伴うことへの認識が不足していたこと

    ・新型コロナ感染症の感染拡大時のモニタリング強化発動基準、販売停止等措置発動基準及び累積損失額基準を設定し、これに基づくリスク管理を実施していたが、これら基準の有効性の検証が十分に行われておらず、本件保険金の減額払いに至った段階でも販売停止等措置発動基準に抵触していないなど、リスク管理が十分に機能していなかったこと

    ・令和3年8月の段階で、契約開始日時から事故発生日までの期間が極端に短い請求が散見され始めたことなどから、契約申込時の告知において、過去1週間以内のPCR検査の実施有無等にかかる告知事項を追加した。しかしながら、保険収支の急激な悪化に至った令和4年3月になって上記告知事項の追加が十分に機能していなかったことを認識し、契約申込み後14日後に保障開始となる取扱いとしたが、依然として保険収支改善への効果が限定的であったこと

    (2)商品開発に係る内部管理態勢
    ・コロナ保険の商品開発時の保険料算定においては新型コロナ感染症にかかる入院(みなし入院を含む)の発生率データ等が反映されていなかったが、販売開始後に保険金支払いが可能な保険料水準となっているかどうかの検証を十分に行っていないこと

    (3)経営管理態勢
    ・コロナ保険に関する保険引受リスク管理や商品開発管理は、当社代表取締役や取締役等の協議により決定・実施されていたが、過去の感染パターンを過信し、上記(1)(2)のとおりリスク管理等が不十分となっていたことから、適切な経営判断を行えなかったこと

    ・こうしたなか、本件保険金の減額払いの公表後、顧客に対して、新型コロナ感染症の感染拡大により、保険金支払いが当初の商品想定を遥かに上回る金額となり保障内容の維持が困難となった旨の説明を行っているが、約款の規定を適用し本件保険金の減額払いに至った詳細な経緯、発生原因を踏まえた改善策及び発生の責任の所在等について、十分な説明を行っていないこと

    2.このため、本日、当社に対し、保険業法第272条の25第1項の規定に基づき、以下の内容の行政処分を行った。

    -保険業法第272条の25第1項(業務改善命令)-

    1.経営管理態勢の改善
    保険金の減額払いに至ったことに関し、適切な経営判断を行うために必要な経営管理の在り方を検討し、それを踏まえた経営管理態勢の改善策を策定・実施すること。

    2.保険引受リスク管理態勢・商品開発に係る内部管理態勢の改善
    保険金の減額払いに至ったことに関し、当社の保険引受リスク管理態勢、商品開発に係る内部管理態勢の問題点・発生原因を踏まえた改善策を策定・実施すること。

    3.本件処分に係る経営責任の所在を明確にすること。

    4.上記1~3に関する今回の行政処分の内容について、顧客に対し十分な説明を実施すること。

    5.上記1~4に関する業務改善計画(具体策及び実施時期を明記したもの)を令和4年7月27日までに提出し、提出後、直ちに実行すること。

    6.上記5の実行後、当該業務改善計画の実施完了までの間、3ヶ月毎の進捗・実施状況を翌月10日までに報告すること(初回提出基準日を令和4年9月末とする)。

    以上です。

↑5月に撮影したアオスジアゲハ春型・♂の吸水行動。

 

がんによる収入減少に備える手段。

6月4日の日本経済新聞・朝刊に、がんによる収入減少に備える手段に関する記事がありました。

記事によりますと、

< …

国立がん研究センターの統計によると、がん患者の多くは高齢者。しかし、働く人が多い20~64歳も約25%を占める。厚生労働省の推計では、仕事を持ちながらがんで通院する人は44.8万人(2019年、70歳以上も含む)。10年から4割近く増えている。

東京都の調査では、働くがん患者で収入が「減った」ケースは少なくない。患者本人で約半分。生体全体でも3分の1に上った(がん患者の就労等に関する実態調査)。夫婦でどちらかががんになれば、配偶者も看病などで就労が制限されやすいためとみられる。

長期の闘病や収入減といった事態では、まず社会保障や勤め先の制度が支えとなる。それで足りない分については、貯蓄や民間保険で補うのが基本的な考えだ。>

とのことです。

【管理人の感想】
今回の記事において、がんに罹患したことに伴う収入減少への備えとして、取り上げられている民間生保の保険は「がん保険」と「就業不能保険」です。

ん~…残念ながら両者とも「がんに罹患したことに伴う収入減少への備え」としては使いにくいかと思います。

まず「がん保険」ですが、がんの治療を受けたときなどの費用を補完する保険商品ですから、がん罹患による収入減少の備えには力不足です。

「就業不能保険」は「国民年金法に定める障害等級1級または2級」や「5大疾病による入院等」など、保険会社所定の就業不能状態に該当すれば支払われる月払給付金を受け取ることで、傷病手当金や障害者年金の上乗せとして生活を支える保険商品ですから、がん罹患による収入減少への備えとして使うにはハードルが高いです。

では、どんな保険商品であれば「がん罹患による収入減少への備え」となるのか?と申しますと、数少ない選択肢のひとつとしてソニー生命保険の「三大疾病収入保障保険」があげられます。

【記事の内容】
以下、日経の記事の内容です。

-日本経済新聞 2022年6月4日朝刊-

【がんの収入減に備える―まずは貯蓄、長期化は保険で】
日本で2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなるとされる。近年は医療の進歩などで生存率が上がり「死の病」から「長く付き合う病」へと変わりつつある。がんで長く治療を受けるようになると費用が膨らみやすく収入が減るケースも多い。いざというときに利用できる制度を確認し、必要な備えをしておきたい。

都内に住む会社員の男性(42)はパートで働く妻、2人の子と暮らす。4ヵ月前から腹痛や下痢が続いたので検査を受けたところ、大腸癌(S上結腸癌)と診断された。医師によれば入院して手術の後、半年程度の抗がん剤治療が必要という。手術や治療も心配だが、最も気になるのは仕事や収入への影響だ。「長く働けなくなれば、妻のパート収入だけでは生活できない」

国立がん研究センターの統計によると、がん患者の多くは高齢者。しかし、働く人が多い20~64歳も約25%を占める。厚生労働省の推計では、仕事を持ちながらがんで通院する人は44.8万人(2019年、70歳以上も含む)。10年から4割近く増えている。

東京都の調査では、働くがん患者で収入が「減った」ケースは少なくない。患者本人で約半分。生体全体でも3分の1に上った(がん患者の就労等に関する実態調査)。夫婦でどちらかががんになれば、配偶者も看病などで就労が制限されやすいためとみられる。

長期の闘病や収入減といった事態では、まず社会保障や勤め先の制度が支えとなる。それで足りない分については、貯蓄や民間保険で補うのが基本的な考えだ。

ファイナンシャルプランナー(FP)の黒田尚子氏は「普段から初年度の治療費100万円と生活費3~6ヵ月分の預貯金を用意しておきたい」と話す。がんと診断されても、すぐに公的な制度を利用できなかったり、手続きに時間がかかったりしたりすることがある。数か月間治療に専念できるたくわえがあれば、診断直後の不安を減らせる。独身者よりも家族がいる人、会社員よりも自営業者、住宅ローンがない人よりもある人は、金額を多くしたほうが無難だろう。

公的な制度には「負担を減らす」と「収入を補填する」の2つがある。前者の代表が高額療養費制度で、後者が傷病手当金や障害年金など。高額療養費制度は1ヵ月あたりの医療費の自己負担額に上限を設けるもので、その人の収入により上限額が変わる。上限に達する月が度々あれば、上限額を下げるルールもある。

傷病手当金は会社員や公務員らが対象で、病気などで働けなくなった日の4日目から月収3分の2に相当する額を支給する。以前の支給期間は開始日から1年6ヵ月だったが、今年1月から通算で1年6ヵ月に変わった。いったん仕事に復帰した後、再び休むようなケースでも不利にならない。

病気になった人の休暇や働き方の制度は休職や病気休暇、短時間勤務など勤め先により様々だ。収入の減り方も制度の使い方などにより変わってくる。休暇には悠久のものもあれば、無給のものもある。「傷病手当金を申請する前に、制度をどう使うか勤め先とよく相談したい」と社会保険労務士の近藤明美氏は助言する。

傷病手当金の後は障害年金が選択肢になる。障害年金は原則、初診日から1年6ヵ月(障害認定日)たっても障害状態が続く場合に請求する。自営業者らが対象となる障害基礎年金の受給額は1級が年97万2250円で2級が同77万7800円(22年度)。会社員などが対象の障害厚生年金は1級から3級まであり、金額は働いた期間やその時の月収で変わる。

ただ、障害年金の受給者のうちがんを理由とするケースは全体の1%にとどまる。その中で最も多い障害厚生年金の3級の場合、最低保障額は年58万3400円となっており、「一般に傷病手当金より少ない」(社労士の近藤氏)点には気を付けたい。

60代なら老齢年金を本来の65歳から繰り上げて受給を始め、収入を確保するのも手だ。この方法では年金額は65歳からの需給より下がり、その水準が生涯続くというデメリットもある。

傷病手当金や障害年金を受給できても、一般に金額はがんになる前の収入より少ない。「収入が減った分は貯蓄や保険で賄う必要がある」(FPの黒田氏)。特に公的な保障が薄い自営業者は、備えが欠かせない。貯蓄以外の備えの一つががん保険。治療費などの支出増に対応するのが主目的だが、収入減もカバーできる。主にがんと診断されたときに一定額を給付する「一時金タイプ」は当面の生活費などに充てることができる。治療の度に給付金を出す「都度給付タイプ」は長く通院で治療するようなケースで役立つ。

長期間働けなくなった時に10万円など決まった額の給付金を毎月受け取る就業不能保険もある。10年から就業不能保険を販売するライフネット生命保険では加入は20~40代が中心。「21年度の給付金支払いは420件で3割弱ががん。支払期間が1年半以上になった事例もある」という。

注意点は60日や180日などの免責期間があり、原則としてすぐに給付金が出ないこと。また給付の条件が「入院」「自宅療養」「障害等級1級か2級」など、がん保険など比べてハードルが高いとの指摘もある。FPの加藤梨里氏は就業不能保険について「がん保険や医療保険とは別に、収入減が長期化した備えとして検討したい」と話している。

以上です。

↑5月上旬に撮影したニホンカワトンボ・♀。