手術給付金の支払を巡る裁定事案。

生命保険協会が取りまとめた、令和3年7~9月の裁定概要集(PDF)に、手術給付金の支払を巡る裁定事案がありました。

裁定概要集によりますと、事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。

<事案の概要>
約款の重要事項を説明しなかったこと等を理由に、手術給付金の支払もしくは既払込保険料の返還を求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
下肢閉塞性動脈硬化症により入院し手術したため、平成22年8月に契約した医療保険にもとづき給付金を請求したところ、約款における支払事由に該当しないとして、手術給付金が支払われなかった。しかし、以下の理由により、手術給付金を支払うか、既払込保険料を返してほしい。

(1)保険会社は、約款の重要事項を一切説明しておらず、説明義務違反がある。

(2)保険会社から、「古くて安い商品」に入っていたからこのような結果が生じたと説明されたが、自分は契約時に他の種類の保険があったことは知らず、団体保険の性質上、保険会社から提案された本契約に加入する以外に選択肢はなかった。

(3)本手術は、公的医療制度で認められた手術であるにもかかわらず、手術給付金の対象とならないことは、保険会社の社会的使命がどこにあるのか、その姿勢を問わざるを得ない。

(4)保険会社が重要事項説明の代用としている「契約のしおり」には、手術によっては手術給付金の対象とならない場合がある旨の記載があるが、そもそも、募集人と直接保険に関する質疑応答を行う機会を与えられなかった。

…この事案は既に裁定が終了しています。

下肢閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化による血管の狭窄や閉塞により主に足先への血流が悪くなってしまう病気です。状態が悪化すると潰瘍や壊死を引き起こして切断することになり、最悪の場合は命を落とします。

また、下肢閉塞性動脈硬化症は他の動脈硬化による疾患(脳梗塞、狭心症、心筋梗塞)を発症しやすいことが知られています。糖尿病の合併症による下肢閉塞性動脈硬化症はさらに危険と言われています。

申立人は薬物療法や運動療法ではなく手術を受けたので、状態が悪化していたことがうかがえます。ただ、その手術が約款に定める手術の定義に該当しなかったようです。

これはあくまで推測ですが、申立人が受けたのは血管バイパス手術ではなく、バルーンやステントによる血管内治療だったのかもしれません。

【事案の内容】
以下、裁定事案の内容です(令和3年7~9月裁定概要集・P31~32より転載)。

【事案2020-288】手術給付金支払請求
・令和3年8月20日 裁定終了

<事案の概要>
約款の重要事項を説明しなかったこと等を理由に、手術給付金の支払もしくは既払込保険料の返還を求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
下肢閉塞性動脈硬化症により入院し手術したため、平成22年8月に契約した医療保険にもとづき給付金を請求したところ、約款における支払事由に該当しないとして、手術給付金が支払われなかった。しかし、以下の理由により、手術給付金を支払うか、既払込保険料を返してほしい。

(1)保険会社は、約款の重要事項を一切説明しておらず、説明義務違反がある。

(2)保険会社から、「古くて安い商品」に入っていたからこのような結果が生じたと説明されたが、自分は契約時に他の種類の保険があったことは知らず、団体保険の性質上、保険会社から提案された本契約に加入する以外に選択肢はなかった。

(3)本手術は、公的医療制度で認められた手術であるにもかかわらず、手術給付金の対象とならないことは、保険会社の社会的使命がどこにあるのか、その姿勢を問わざるを得ない。

(4)保険会社が重要事項説明の代用としている「契約のしおり」には、手術によっては手術給付金の対象とならない場合がある旨の記載があるが、そもそも、募集人と直接保険に関する質疑応答を行う機会を与えられなかった。

<保険会社の主張>
以下の理由により、申立人の請求に応じることはできない。

(1)募集時に約款の記載事項すべてを説明することはできないため、約款を交付し、契約者自身で内容を確認するように依頼している。手術給付金の支払い対象となる手術の詳細については、特に契約者から申し出がない限り、個別の説明は行っていない。

(2)申立人が主張するような説明は行っておらず、手術給付金が支払えないことに関連して、最近では保障範囲が広くなっている商品が出ていることを述べた。

(3)本契約の約款における手術給付金の支払事由に該当しなければ、公的医療の対象であっても手術給付金の支払い対象外となる。

<裁定の概要>
1.裁定手続
裁定審査会は、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、契約時の状況を把握するため、申立人に対して事情聴取を行った。

2.裁定結果
乗機手続きの結果、約款の重要事項についての説明不足は認められず、その他保険会社に指摘すべき特段の個別事情も見いだせないことから、和解による解決の見込みがないと判断して、手続きを終了した。

以上です。

↑開花を始めた庭先のクロッカス(今月撮影)。

陽子線、重粒子線治療の保険適用範囲拡大へ。

本題の前に、当ブログに関する非常に重要なことを申し上げます。2023年1月末をもってBiglobeのブログサービスが終了します。それに伴い今年4月(予定)に他社ブログサービスへの移行ツールが提供されることになりました。

季節のデザインテンプレートが豊富で、とても気に入っているブログサービスなのですが…あと1年で終了となってしまい、本当に残念です。なお、当ブログですが提供される移行ツールを使用し、他社ブログサービスで引き続き記事を気ままに書いていく所存です。

今後ともよろしくお願いいたします。

さて、本題です。

1月19日の日本経済新聞朝刊に、陽子線と重粒子線治療に関する記事がありました。

記事によりますと、

< 厚生労働省は18日の医療技術評価分科会で、放射線の一種である粒子線治療を巡り、肝内胆管がんなど5つのがんについて保険適用が妥当だとまとめた。これまでは高額な医療費が患者負担となっていた。月内にも中央社会保険医療協議会の総会で最終決定し、4月から全額保険適用とする。同治療の適用対象が拡大するのは4年ぶり。

大型の肝細胞がんや手術後に局所再発した大腸がんなどが新たに対象となる。いずれも切除ができない場合に限る。現在は保険適用の医療を併用できる先進医療の位置づけで、約300万円とされる粒子線の照射費用は全額自己負担となる。>

とのことです。

【管理人の感想】
記事では陽子線治療と重粒子線治療を「粒子線治療」と一括りにしているため、陽子線治療で保険収載が認められたものと、重粒子線治療で保険収載が認められたものの詳細が分かりません。詳細が分かるのはまだ先ですね。

昨年11月4日の医療技術評価分科会の医療技術評価・再評価提案書「提案書19」のP105~114(PDF)によると、日本腫瘍学会が提案した陽子線治療と重粒子線治療の適応拡大の概要は以下の通りです。

◇陽子線治療の適応拡大
〇適応拡大疾患:日本放射線腫瘍学会が定めた適応症
既保険収載疾患(小児腫瘍、骨軟部腫瘍、頭頚部悪性腫瘍、前立腺癌)に加えて、下記の5疾患の適用拡大を要望

①消化器腫瘍(原発性肝癌、胆道癌、進行性膵癌、食道癌、再発性直腸癌)

②肺・縦隔腫瘍(原曲性肺がん、局所進行非小細胞肺癌、縦隔腫瘍)

③泌尿器腫瘍(膀胱癌、腎癌)

④脳脊髄腫神経膠腫、髄膜種等腫等)

⑤少数転移性腫瘍(転移性肺腫瘍、転移性肝腫瘍、転移性リンパ節腫瘍)

国内の治療方針が統一され、既存の放射線治療との比較において、優位性また同等性が明らかである。

◇重粒子線治療の適応拡大
〇適応拡大疾患:日本放射線腫瘍学会が定めた適応症
既保険収載疾患(頭頚部腫瘍、骨軟部腫瘍、前立腺癌)に加えて下記5疾患の適応拡大を要望

①消化器腫瘍(肝胆膵腫瘍、食道癌、大腸癌術後再発)

②肺・縦隔腫瘍(肺癌)

③泌尿器科腫瘍(腎癌)

④婦人科腫瘍(子宮頸癌。婦人科領域悪性黒色腫等)

⑤少数転移性腫瘍(肝転移、肺転移、リンパ節転移)

治療方針が統一され、既存の放射線治療との比較で、優位性又は同等性が明らかである。

【記事の内容】
以下、日経の記事の内容です

-日本経済新聞 2022年1月19日朝刊-

【粒子線治療の保険拡大】
厚生労働省は18日の医療技術評価分科会で、放射線の一種である粒子線治療を巡り、肝内胆管がんなど5つのがんについて保険適用が妥当だとまとめた。これまでは高額な医療費が患者負担となっていた。月内にも中央社会保険医療協議会の総会で最終決定し、4月から全額保険適用とする。同治療の適用対象が拡大するのは4年ぶり。

大型の肝細胞がんや手術後に局所再発した大腸がんなどが新たに対象となる。いずれも切除ができない場合に限る。現在は保険適用の医療を併用できる先進医療の位置づけで、約300万円とされる粒子線の照射費用は全額自己負担となる。

粒子線は放射線治療で一般的なエックス線に比べ、がん部分に集中して作用する特徴がある。他の組織が受ける負担を減らしながら、必要な場所に高い放射線量を照射できる。2016年度に初めて保険適用された。粒子線治療は陽子線と重粒子線の2種類があり、現在は陽子線で4種類、重粒子線で3種類が保険適用されている。

食道がんや腎がんへの保険適用は見送った。粒子線治療がエックス線治療よりも生存率が高いといった明確な評価が得られず、1月初めの専門家会議では「一定の科学的根拠がある」との評価にとどめていた。

先進医療に位置づけているがん治療について、22年度から見直しを進める。保険適用にするほか、先進医療の枠組みから外すといったことも検討する。専門家からは「効果が不十分な治療もあり、一度再整理すべきだ」との声が上がっていた。21年度の診療報酬改定に向け、引き続き議論する。

以上です。

↑昨年8月に撮影したマユタテアカネ・♂。