がん診断給付金の支払いを巡る裁定事案。

生命保険協会が取りまとめた、令和5年4~6月の裁定概要集(PDF)に、がん診断給付金の支払いを巡る裁定事案がありました。

裁定概要集によりますと、事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。

<事案の概要>
 約款に定める支払事由に該当しないことを理由に、がん診断給付金が支払われなかったことを不服として、給付金の支払いを求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 卵巣漿液性境界悪性腫瘍に罹患し子宮全摘出および子宮付属器腫瘍摘出の手術を受けたため、平成27年9月に乗合代理店を通じて契約した医療保険にもとづき、がん診断給付金を請求したところ、約款に定める支払事由に該当しないことを理由に支払われなかった。しかし、以下等の理由により、がん診断給付金を支払ってほしい。

(1)他の保険会社に「卵巣漿液性境界悪性腫瘍」と診断名を伝え、がん保険に加入できるかを問い合わせた結果、がんの既往歴があるため加入できないと言われた。

(2)主治医からもがん患者と認められており、両方の卵巣および子宮を摘出し、間違いなくがんである旨の説明を受けた。

…この事案は裁定終了となっています。

申立人が罹患したのは、卵巣がんの大半を占める上皮性腫瘍の一種です。ではどうして支払対象外なのか?「卵巣境界悪性腫瘍―最近の考え方 京都大学医学部附属病院病理診断部 三上 芳喜」によりますと、

<境界悪性腫瘍とは臨床病理学的概念であり、予後の観点から良性と悪性の中間に位置づけられる腫瘍群である。…>

とありました。

<保険会社の主張>を読むと、以前このBlogで取り上げた類内膜境界悪性腫瘍のケースと同様、本疾患も約款が準拠するICD-10基本分類コードの、「女性生殖器の悪性新生物」「卵巣の悪性新生物」や「上皮内新生物」に該当しません。

これでは保険会社は給付金を支払うことはできません。

【裁定事案の内容】

以下、裁定事案の内容です(令和5年4~6月裁定概要集P34~35より転載)。

[事案2022-278]がん診断給付金支払請求
・令和5年6月12日 裁定終了

<事案の概要>
 約款に定める支払事由に該当しないことを理由に、がん診断給付金が支払われなかったことを不服として、給付金の支払いを求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 卵巣漿液性境界悪性腫瘍に罹患し子宮全摘出および子宮付属器腫瘍摘出の手術を受けたため、平成27年9月に乗合代理店を通じて契約した医療保険にもとづき、がん診断給付金を請求したところ、約款に定める支払事由に該当しないことを理由に支払われなかった。しかし、以下等の理由により、がん診断給付金を支払ってほしい。

(1)他の保険会社に「卵巣漿液性境界悪性腫瘍」と診断名を伝え、がん保険に加入できるかを問い合わせた結果、がんの既往歴があるため加入できないと言われた。

(2)主治医からもがん患者と認められており、両方の卵巣および子宮を摘出し、間違いなくがんである旨の説明を受けた。

<保険会社の主張>
 以下等の理由により、申立人の請求に応じることはできない。

(1)申立人の疾患は、約款に定める支払事由であるICD-10(2003年版)準拠の基本分類コードC51~58(女性生殖器の悪性新生物)におけるC56(卵巣の悪性新生物)もしくはD00~D09(上皮内新生物)に該当しない。

(2)申立人が受けた手術は、「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン(2020年版)」における当該傷病の基本術式である。

<裁定の概要>
1.裁定手続
 裁定審査会は、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、和解を相当とする事情の有無を確認するため、申立人に対して事情聴取を行った。

2.裁定結果
 上記手続の結果、がん診断給付金の支払は認められず、その他保険会社に指摘すべき特段の個別事情も見出せないことから、和解による解決の見込みがないと判断して、手続を終了した。

以上です。

↑越冬明けのクロコノマチョウ・秋型(4月撮影)。

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