日本頭頚部外科学会が「アルノミックス治療(光免疫療法)」に関する注意喚起の声明を発表。

5月12日、特定非営利活動法人日本頭頚部外科学会はHPにて、「アルミノックス治療(光免疫療法)」に関する注意喚起の声明を発表*しました。

*詳しくはこちらをどうぞ。

5/12・お知らせ「アルノミックス治療(光免疫療法)について」

声明の内容は以下の通りです。

【アルノミックス治療(光免疫療法)について】

アルミノックス治療(光免疫療法)は、米国国立がん研究所(NIH)の小林久隆先生により開発された新しいがん治療法です。海外における第Ⅰ/Ⅱ相試験、国内の第Ⅰ相試験、さらに国際共同第Ⅲ相試験を経て、厚生労働省の「先駆け審査指定制度」の対象品目として指定され、2020年9月に条件付き早期承認を取得しました。その後、2021年1月には、切除不能な再発・転移性頭頸部がんを対象とした治療が、世界に先駆けて日本にて開始されました。

本治療は従来のがん治療とは全く異なる革新的な治療法であることから、安全かつ適正に患者さんへ提供されるよう、学会内では厳格な施設基準(頭頸部がん認定施設)および術者基準(耳鼻咽喉科専門医かつ頭頸部がん専門医)を定め、本学会のアルミノックス運営委員会により管理してきました。そうして2024年9月までに、約220名の方に光免疫療法が実施されてきました。こうした厳密な基準の設定は、容態の変化に応じて緊急入院、緊急手術、集中治療室での管理が必要となることがあるため、極めて重要であると考えています。

保険診療において光免疫療法を安全に受けていただける病院(学会認定施設)については、以下のURLをご参照ください。

https://pts.rakuten-med.jp/akalux/institution/

なお、これらの認定医療機関以外で光免疫療法の提供を謳っている施設があるとの報告がありますが、それらについて本学会は一切関与しておりません。

また、現時点において、切除不能な再発・転移性頭頸部がん以外の疾患に対する光免疫療法の有効性・安全性は確立されておりません。

私たちは、光免疫療法を安全かつ適切に患者さまへ提供すべく、知識と経験を積み重ねてまいりました。本治療をご希望の患者さまには、学会認定の医療機関にて受診されることを、強く推奨しております。

【考察】

同学会が問題視しているのは、民間クリニックが自由診療として行っている「先端光免疫療法」あるいは「光免疫療法」の可能性が極めて高いと考えています。

そもそも光免疫療法とは

<抗体-光感受性物質複合体であるアキャルックス®と光照射による治療で、アキャルック ス®を投与し20–28時間後に690 nmの光を照射することによって色素は活性化し,複合体が結合した細胞にの み迅速な殺細胞作用を誘導させることができるとされている。がん細胞のみを選択的に破壊すると同時に,腫 瘍細胞を取り巻く正常組織の損傷を最小化することができると期待されている。 本邦では切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌に対して条件付で保険承認され,2021年1月1日より 保険診療として行われている治療>

です。

※引用:(頭頸部がんの光免疫療法 篠﨑 剛  国立がん研究センター東病院頭頸部外科)

これに対し、民間クリニックが自由診療で行っているものは、正式には「光線力学的治療法(PDT)」であって、「光免疫療法」とは作用機序(光感受性物質ががん細胞内の酸素を活性酸素(一重項酸素)に変化させて、がん細胞をアポトーシス(自然死)へ導く)*1や使用薬剤(リン脂質で構成された複数層カプセルであるリポソームにICGを封入した薬剤の「ICGリポソーム」を使用。ICGとは、インドシアニングリーンのことで、肝機能検査にも用いられている物質)*2が異なる治療方法です。

*1.2:「佐藤俊彦医師によるセカンドオピニオン情報サイト」より引用

なお、光感受性物質のフォトフリン(第一世代)やレザフィリン(第二世代)とレーザー照射による光線力学的治療法(PDT)は以下の症例が公的保険適用となっています(一般社団法人日本光線力学学会より引用)。

<早期肺がん、表在性食道がん、表在性早期胃がん、子宮頚部初期がんおよび異形成、加齢黄斑変性症、原発性悪性脳腫瘍、化学放射線療法又は放射線療法後の局所遺残再発食道癌>

民間クリニックが行っているのは、保険適用の光線力学的治療法とも異なる光感受性物質とレーザー照射を組み合わせたもので、高額な自己負担を余儀なくされる自由診療です。

そのような光線力学的治療法を「光免疫療法」などと称して行っているのですから、学会が注意喚起の声明を出すのは当然でしょう。

↑川原の花大根にやってきたナミアゲハ春型の♂(4月撮影)。

一部の早期乳がんの治療に「切らない治療」という選択肢が加わりました。

令和5(2023)年12月15日、国立がん研究センターはHPにて、一部の早期乳がんに対するラジオ波焼灼療法(RFA)の保険適用取得を発表*しました。

*詳しくはこちらをどうぞ。
12/15・国立がん研究センタープレスリリース早期乳がんに対するラジオ波焼灼療法による切らない治療が薬事承認・保険適用を取得 先進医療制度下で実施した医師主導特定臨床研究の成果を活用

ラジオ波焼灼療法(RFA)とは、腫瘍に高周波のラジオ波帯を通電し、電子の流れで生じるジュール熱により組織を焼灼する治療法です。2004年に肝がんへの同療法が保険適用となり、その後肺がんや小径腎がん、悪性骨腫瘍、骨盤内悪性腫瘍などに対する同療法が保険適用になっています(引用:日経メディカル「がんナビ」)。

早期乳がんに対するラジオ波焼灼療法の適用基準を検索したところ、日本乳癌学会がHP上で一般向けの指針を発表*していました。

*詳しくはこちらをどうぞ。
ラジオ波焼灼療法適正使用指針(一般向け)(PDF)

また、治療の実施医療機関も合わせて公表*されていました。

*詳しくはこちらをどうぞ。
日本乳癌学会 市民のみなさまに知ってほしい情報

2月19日時点での実施医療機関は以下の通りです。

  • 北海道大学病院(北海道)
  • 群馬県立がんセンター(群馬県)
  • 埼玉医科大学総合医療センター(埼玉県)
  • 東京歯科大学市川総合病院(千葉県)
  • 千葉県がんセンター(千葉県)
  • 国立がん研究センター東病院(千葉県)
  • 国立がん研究センター中央病院(東京都)
  • がん・感染症センター都立駒込病院(東京都)
  • 国立病院機構東京医療センター(東京都)
  • けいゆう病院(神奈川県)
  • 湘南鎌倉総合病院(神奈川県)
  • 岐阜大学医学部附属病院(岐阜県)
  • 大阪国際がんセンター(大阪府)
  • 岡山大学病院(岡山県)
  • 広島市立広島市民病院(広島県)
  • 国立病院機構 四国がんセンター(愛媛県)
  • 熊本大学病院(熊本県)

薬価が高い新薬の保険適用承認や新たな先進医療だけでなく、各癌学会が科学的根拠に基づいて推奨する最新の治療(標準治療)の進化・拡充にもっと注目する必要性を感じました。

↑よそ様のキバナコスモスにやってきたヒメアカタテハ(昨年9月撮影)。

悪性神経膠腫に対する新薬登場。増殖型遺伝子組み換え単純ヘルペスウイルスで、腫瘍化したグリア細胞だけを破壊。

5月31日の日本経済新聞朝刊に、悪性神経膠腫に対する新薬についての記事がありました。

記事によりますと、

< ウイルスを使ってがん細胞を退治する「ウイルス療法」という新たな治療技術が日本でも登場した。第一弾として第一三共が、悪性度の高い脳腫瘍向けに2021年11月から治療薬の販売を始めた。骨腫瘍向けに鹿児島大学が臨床試験(治験)を開始したほか、鳥取大学や東京大学などでもウイルス療法薬の開発が進む。既存の手法では治療が難しいがんの患者にとって、希望の薬となりそうだ。>

とのことです。

【管理人の感想】
第一三共製薬が発売したのは、「デリタクト(がん細胞のみで増殖可能となるよう設計された人為的三重変異を有する増殖型遺伝子組み換え単純ヘルペスウイルス1型(第三世代がん治療用単純ヘルペスウイルス1型))」という薬です。

対象となる疾患はグレードⅢ、Ⅳの悪性神経膠腫です。中でも特に悪性度が高いのが膠芽腫(グレードⅣ)で、悪性神経膠腫のうち約60~70%を占めています。

標準治療として外科手術、放射線、抗がん剤を組み合わせた治療が行われていますが、予後は極めて悪く再発した場合の平均余命は1年以下といわれています。

この膠芽腫は、昨年4月に私のお客様が亡くなった原因疾患でもあります。そのお客様は2018年初頭に歩行障害の症状が現れ、緊急入院となり検査の結果、膠芽腫と診断されました。

標準治療を受け、ご家族と約3年余りの闘病生活を過ごしていたのですが…残念ながら亡くなってしまいました。

予後不良のがんに対する有望な治療薬が保険適用されたことは、悪性神経膠腫と戦っている患者さんやご家族にとってまさに朗報だと思います。

小型加速器を用いたBNCTとの併用が可能になれば、生存期間のさらなる向上につながるかも…と期待しています。

さて、今回の新薬ですが、抗腫瘍薬に分類されるのか?それとも免疫賦活剤に分類されるのか?このあたりがどうしてもわかりませんでした。

【記事の内容】
以下、日経の記事の内容です。

-日本経済新聞 2022年5月31日朝刊-

【ウイルス使ったがん治療-脳腫瘍など、患部に注入で効果】
ウイルスを使ってがん細胞を退治する「ウイルス療法」という新たな治療技術が日本でも登場した。第一弾として第一三共が、悪性度の高い脳腫瘍向けに2021年11月から治療薬の販売を始めた。骨腫瘍向けに鹿児島大学が臨床試験(治験)を開始したほか、鳥取大学や東京大学などでもウイルス療法薬の開発が進む。既存の手法では治療が難しいがんの患者にとって、希望の薬となりそうだ。

「こんな治療法がもっと早く登場していたら…」。7年前に夫を脳腫瘍で亡くした大阪府の70代の女性は、国内で登場したがん治療ウイルス技術について、感想を漏らす。夫は放射線治療後に脳腫瘍を再発したが、手術もできず、当時は有効な治療薬もなかったという。「脳腫瘍の患者とその家族にとって希望の光が見えた」と話す。

がん治療向けウイルス療法は、一般的に治療用に遺伝子を改変したウイルスを注射でがん細胞に直接投与する。ウイルスはがん細胞の中でだけ増殖し、がん細胞を破壊する。ウイルスはがん細胞を破壊後に周辺に広がり、広範囲のがん細胞を除去できる。正常な細胞の中でウイルスは増殖しないように設計しており、安全性は高い。

欧米では15年に悪性度の高い皮膚がん向けに承認されているが、日本では承認されていなかった。

今回、国内承認第一号となった第一三共の「デリタクト(テセルパツレブ)」は、東京大学医学部研究所の藤堂貝紀教授が研究してきた成果を医薬品に応用した製品。脳腫瘍の一つ、神経膠腫(グリオーマ)の中でも悪性度が高い患者に対する治療薬だ。

悪性度の高いグリオーマ(グレード4)は、脳の表面ではなく、脳の内側から発生し、脳の中央部へしみこむように広がる。手術では完全に取りきることが難しく、手術後も時間の経過とともにがん細胞が増えて再発する恐れが強い。放射線治療と化学療法で増殖を抑えることもできるが、予後は12~15ヵ月とされる。再発後は治療の選択肢がほとんどない※のが現状だ。

※管理人補足:再発した悪性神経膠腫に対する効果的な治療として期待されているのが、ホウ素中性子補足療法(BNCT)です。昨年12月下旬に、関連学会の日本BNCT臨床腫瘍学会が、再発した悪性神経膠腫に対するBNCTの保険適用を求める要望書を厚生労働省に提出しました。

現在は治験を行っている段階です。関西BNCT共同医療センターにおいて、特定臨床研究として実施しています。

デリタクトの治験に参加した13人に対して治療後1年たった時点で有効性を調べたところ、1年後も生存している患者の割合は92.3%だった。治験途中でも有効性が証明されたため、治験を中止する「有効中止」となった。藤堂教授は「治療法がなかった悪性脳腫瘍の患者にとって新たな選択肢」と話す。

がんのウイルス療法の特徴は、最も手強いがんに対して効果がある点だ。手術で取り切れず、抗がん剤や放射線も効きにくく、免疫も働きにくい部位にできる脳腫瘍や骨腫瘍など向けに開発されている。

しかもその効果が長期間持続するのも利点だ。ウイルスによって、体内の免疫が刺激すると考えられている。近年の研究では抗がん剤やほかの免疫療法との併用で治療効果が高まるという報告もあり、米国や中国をはじめ世界で140以上の治験が進んでいる。

ただ世界的に見てまだ治療薬となっているものは少ない。欧米で15年に悪性黒色腫(皮膚がん)の治療薬「イムリジック」が承認されて以降、今回のデリタクトで2つ目だ。新規の治療用ウイルスの開発を進めている鹿児島大学の小戝(こさい)健一郎教授は「ウイルスを設計するには高度な技術と複雑な工程が必要だ」と話す。

例えば攻撃性が強い一方、体内であまり増えず、副作用が強いウイルスであれば治療には使いにくい。また複数の候補から有効性が見込まれるウイルス候補を見つけることができても、大量生産するのが難しければ、医薬品として普及させるのは難しい。

小戝教授らの研究チームは日本医療研究開発機構(AMED)の助成を受け、ウイルスを効率よく改変し、迅速に生産できる基盤技術の開発に世界に先駆けて成功している。16年から始めた初期段階の治験では、悪性度の高い骨軟部腫瘍の患者で安全性と有効性を示す結果を確認。中は2年以上効果が維持されていた患者がいたという。

研究チームは、21年から鹿児島大学病院、久留米大学病院、国立がん研究センター中央病院の全国3施設による多施設治験を始めた。今後2年間で全国から20人程度の悪性骨腫瘍の患者に参加してもらい、安全性と有効性を確かめる。希少がんに対する新たな治療薬として薬事申請を目指す。

もっとも、現時点ではがん治療ウイルスも万能ではない。難治性のがんや再発したがんの増殖を抑え込み、生存期間を伸ばす効果がある一方、一定の割合で効果が見られない患者もいる。そのため安全性が高く、より有効性が高い次世代の治療ウイルスの開発が世界中で急ピッチで進む。

国内ではアステラス製薬と鳥取大学が初期治験を進めるほか、東京大学や信州大学などが臨床開発を進めており、アカデミア発の創薬に期待が高まる。ただ藤堂教授は「日本は基礎研究や技術があるが、臨床開発の現場が欧米に劣っている。薬価を含めた創薬環境の改善が急務だ」と訴える。画期的な新薬をがん患者に届けるための政策的な後押しも必要だ。

以上です。

4月に撮影したダビドサナエ・♂。