悪性神経膠腫に対する新薬登場。増殖型遺伝子組み換え単純ヘルペスウイルスで、腫瘍化したグリア細胞だけを破壊。

5月31日の日本経済新聞朝刊に、悪性神経膠腫に対する新薬についての記事がありました。

記事によりますと、

< ウイルスを使ってがん細胞を退治する「ウイルス療法」という新たな治療技術が日本でも登場した。第一弾として第一三共が、悪性度の高い脳腫瘍向けに2021年11月から治療薬の販売を始めた。骨腫瘍向けに鹿児島大学が臨床試験(治験)を開始したほか、鳥取大学や東京大学などでもウイルス療法薬の開発が進む。既存の手法では治療が難しいがんの患者にとって、希望の薬となりそうだ。>

とのことです。

【管理人の感想】
第一三共製薬が発売したのは、「デリタクト(がん細胞のみで増殖可能となるよう設計された人為的三重変異を有する増殖型遺伝子組み換え単純ヘルペスウイルス1型(第三世代がん治療用単純ヘルペスウイルス1型))」という薬です。

対象となる疾患はグレードⅢ、Ⅳの悪性神経膠腫です。中でも特に悪性度が高いのが膠芽腫(グレードⅣ)で、悪性神経膠腫のうち約60~70%を占めています。

標準治療として外科手術、放射線、抗がん剤を組み合わせた治療が行われていますが、予後は極めて悪く再発した場合の平均余命は1年以下といわれています。

この膠芽腫は、昨年4月に私のお客様が亡くなった原因疾患でもあります。そのお客様は2018年初頭に歩行障害の症状が現れ、緊急入院となり検査の結果、膠芽腫と診断されました。

標準治療を受け、ご家族と約3年余りの闘病生活を過ごしていたのですが…残念ながら亡くなってしまいました。

予後不良のがんに対する有望な治療薬が保険適用されたことは、悪性神経膠腫と戦っている患者さんやご家族にとってまさに朗報だと思います。

小型加速器を用いたBNCTとの併用が可能になれば、生存期間のさらなる向上につながるかも…と期待しています。

さて、今回の新薬ですが、抗腫瘍薬に分類されるのか?それとも免疫賦活剤に分類されるのか?このあたりがどうしてもわかりませんでした。

【記事の内容】
以下、日経の記事の内容です。

-日本経済新聞 2022年5月31日朝刊-

【ウイルス使ったがん治療-脳腫瘍など、患部に注入で効果】
ウイルスを使ってがん細胞を退治する「ウイルス療法」という新たな治療技術が日本でも登場した。第一弾として第一三共が、悪性度の高い脳腫瘍向けに2021年11月から治療薬の販売を始めた。骨腫瘍向けに鹿児島大学が臨床試験(治験)を開始したほか、鳥取大学や東京大学などでもウイルス療法薬の開発が進む。既存の手法では治療が難しいがんの患者にとって、希望の薬となりそうだ。

「こんな治療法がもっと早く登場していたら…」。7年前に夫を脳腫瘍で亡くした大阪府の70代の女性は、国内で登場したがん治療ウイルス技術について、感想を漏らす。夫は放射線治療後に脳腫瘍を再発したが、手術もできず、当時は有効な治療薬もなかったという。「脳腫瘍の患者とその家族にとって希望の光が見えた」と話す。

がん治療向けウイルス療法は、一般的に治療用に遺伝子を改変したウイルスを注射でがん細胞に直接投与する。ウイルスはがん細胞の中でだけ増殖し、がん細胞を破壊する。ウイルスはがん細胞を破壊後に周辺に広がり、広範囲のがん細胞を除去できる。正常な細胞の中でウイルスは増殖しないように設計しており、安全性は高い。

欧米では15年に悪性度の高い皮膚がん向けに承認されているが、日本では承認されていなかった。

今回、国内承認第一号となった第一三共の「デリタクト(テセルパツレブ)」は、東京大学医学部研究所の藤堂貝紀教授が研究してきた成果を医薬品に応用した製品。脳腫瘍の一つ、神経膠腫(グリオーマ)の中でも悪性度が高い患者に対する治療薬だ。

悪性度の高いグリオーマ(グレード4)は、脳の表面ではなく、脳の内側から発生し、脳の中央部へしみこむように広がる。手術では完全に取りきることが難しく、手術後も時間の経過とともにがん細胞が増えて再発する恐れが強い。放射線治療と化学療法で増殖を抑えることもできるが、予後は12~15ヵ月とされる。再発後は治療の選択肢がほとんどない※のが現状だ。

※管理人補足:再発した悪性神経膠腫に対する効果的な治療として期待されているのが、ホウ素中性子補足療法(BNCT)です。昨年12月下旬に、関連学会の日本BNCT臨床腫瘍学会が、再発した悪性神経膠腫に対するBNCTの保険適用を求める要望書を厚生労働省に提出しました。

現在は治験を行っている段階です。関西BNCT共同医療センターにおいて、特定臨床研究として実施しています。

デリタクトの治験に参加した13人に対して治療後1年たった時点で有効性を調べたところ、1年後も生存している患者の割合は92.3%だった。治験途中でも有効性が証明されたため、治験を中止する「有効中止」となった。藤堂教授は「治療法がなかった悪性脳腫瘍の患者にとって新たな選択肢」と話す。

がんのウイルス療法の特徴は、最も手強いがんに対して効果がある点だ。手術で取り切れず、抗がん剤や放射線も効きにくく、免疫も働きにくい部位にできる脳腫瘍や骨腫瘍など向けに開発されている。

しかもその効果が長期間持続するのも利点だ。ウイルスによって、体内の免疫が刺激すると考えられている。近年の研究では抗がん剤やほかの免疫療法との併用で治療効果が高まるという報告もあり、米国や中国をはじめ世界で140以上の治験が進んでいる。

ただ世界的に見てまだ治療薬となっているものは少ない。欧米で15年に悪性黒色腫(皮膚がん)の治療薬「イムリジック」が承認されて以降、今回のデリタクトで2つ目だ。新規の治療用ウイルスの開発を進めている鹿児島大学の小戝(こさい)健一郎教授は「ウイルスを設計するには高度な技術と複雑な工程が必要だ」と話す。

例えば攻撃性が強い一方、体内であまり増えず、副作用が強いウイルスであれば治療には使いにくい。また複数の候補から有効性が見込まれるウイルス候補を見つけることができても、大量生産するのが難しければ、医薬品として普及させるのは難しい。

小戝教授らの研究チームは日本医療研究開発機構(AMED)の助成を受け、ウイルスを効率よく改変し、迅速に生産できる基盤技術の開発に世界に先駆けて成功している。16年から始めた初期段階の治験では、悪性度の高い骨軟部腫瘍の患者で安全性と有効性を示す結果を確認。中は2年以上効果が維持されていた患者がいたという。

研究チームは、21年から鹿児島大学病院、久留米大学病院、国立がん研究センター中央病院の全国3施設による多施設治験を始めた。今後2年間で全国から20人程度の悪性骨腫瘍の患者に参加してもらい、安全性と有効性を確かめる。希少がんに対する新たな治療薬として薬事申請を目指す。

もっとも、現時点ではがん治療ウイルスも万能ではない。難治性のがんや再発したがんの増殖を抑え込み、生存期間を伸ばす効果がある一方、一定の割合で効果が見られない患者もいる。そのため安全性が高く、より有効性が高い次世代の治療ウイルスの開発が世界中で急ピッチで進む。

国内ではアステラス製薬と鳥取大学が初期治験を進めるほか、東京大学や信州大学などが臨床開発を進めており、アカデミア発の創薬に期待が高まる。ただ藤堂教授は「日本は基礎研究や技術があるが、臨床開発の現場が欧米に劣っている。薬価を含めた創薬環境の改善が急務だ」と訴える。画期的な新薬をがん患者に届けるための政策的な後押しも必要だ。

以上です。

4月に撮影したダビドサナエ・♂。

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