生保各社、MVAを利用した外貨建保険のタイムラグマージンを見直しへ。

2月1日付の日本経済新聞・朝刊に、MVAを利用した外貨建保険についての記事がありました。

記事によりますと、

< 生命保険各社が外貨建保険の解約時に発生する手数料を見直す。業界トップの三井住友海上プライマリー生命保険が4月の契約分から廃止し、日本生命保険などは料率を下げる。金利の変動リスクに備える保険会社が設定してきたが、契約者に負担を求める不透明さを金融庁が問題視していた。苦情が目立つ外貨建保険の販売を適正化する動きが広がってきた。>

【管理人の感想】
今回の日経を記事を読んだだけでは、金融庁がMVAを利用した外貨建保険のタイムラグマージンを問題視していたという誤った情報を受け取ってしまいます。

しかし、事実は全く異なります。今回生保各社がタイムラグマージンの見直しを行う主な理由は、昨年8月27日付で適用された「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正によるものです。

改正は以下の(新設)の2か所です。

〇Ⅱ-4-2-2 保険契約の募集上の留意点
(2)法第294条、第300条の2関係(情報提供義務)

③準金融商品取引法第37条の3関係

イ.契約締結前交付書面に関し、「契約概要」と「注意喚起情報」について、書面を作成し、交付しているか。

なお、契約締結前交付書面の主な項目は以下のとおりとする。

(MVA(Market Value Adjustment)(注)を利用した商品)
l.市場金利に応じた運用資産の書かう変動を解約返戻金に反映させる保険であることの説明。

m.保険契約の締結から一定の期間内に解約された場合、解約返戻金が市場金利に応じて計算されるため、損失が生じることとなる恐れがあること。

n.解約返戻金額の計算基礎率を設定する時期と解約時期の間に生じる金利変動や、運用資産の売却にかかる取引費用等に備えるために係数を定める場合、その係数が及ぼす影響(解約時の保険料積立金に対して控除される割合の例示等)(新設)

o.諸費用に関する事項(運用期間中の費用等)

〇Ⅳ 保険商品審査上の留意点

Ⅳ-5-3 契約者価額
(1)解約返戻金については、支出した事業費及び投資上の損失、保険設計上の仕組み等に照らし、合理的かつ妥当に設定し、保険契約者にとって不当に不利益なものになっていないか。

(2)MVAを利用した商品について、解約返戻金額の計算基礎率を設定する時期と解約時期の間に生じる金利変動や、運用資産の売却に係る取引費用等に備えるために係数を定める場合、その係数については、解約に伴い発生する費用との整合性やリスク管理の高度化等に照らして、合理的かつ妥当な水準に設定し、保険契約者にとって不当に不利益になものとなっていないか。(新設)

今回、日経が報じているのは商品審査上の留意点の改正によるものです。

では、なぜ監督指針改正に至ったのか?日経が報じているような不透明さがあったのではないか?と思うかもしれませんが、それは違います。2021年9月10日の保険モニタリングレポート(PDF)において、次のようにその経過が記述されていました。

※P50より転載

< ⑦ 商品性(タイムラグマージン)
外貨建保険において、市場金利に応じた運用資産の価格変動を解約返戻金額に反映する MVA を導入している商品が多く存在している。MVA の計算に当たっては、解約返戻金額の計算基礎を設定する時期と解約時期の間(最大2週間程度)に生じる金利変動等に備えるための係数(いわゆる「タイムラグマージン」)を設定して解約返戻金額を減じて計算していることが多く、その水準の合理性・妥当性と、顧客説明の充実について保険業界と対話を行った。

その結果、係数の水準については、リスク管理の高度化や解約に伴って見込まれる取引費用との整合性等に照らして、合理的かつ妥当な水準とする必要があるとの共通認識に至った。また、顧客説明については、募集資料において複雑な数式を用いて記載されていることから、解約返戻金額からの控除割合の例示を記載することが顧客にとって分かりやすいであろうという共通認識が得られた。

こうした対話を踏まえ、2021年8月に、顧客本位の業務運営の観点から、係数を設定する場合における保険商品審査上・募集上の留意点等を明示する監督指針の改正を行った。>

このことからみても、金融庁がタイムラグマージンについて不透明さが…などと問題視していなかったことが分かります。

また、これとは別に過去3回分の「保険商品審査事例集」にも、タイムラグマージンの見直しについての事例が登場していましたので取り上げます。

1.「令和2年2月 保険商品審査事例集」(PDF)P4~5
2.生命保険商品(算出方法書)
(1)監督指針Ⅳ-5-3(契約者価額)
<MVAにおける調整項の水準について>
MVA(市場価格調整)の適用にあたり、過去の指標金利の推移などを参考に解約時と資産売却時のズレ(タイムラグ)から発生する損失は限定的と判断し、タイムラグマージンを 0.00%と設定した。

(コメント)
一般的に、MVAの適用にあたり、解約時と保険会社の資産売却時とのタイムラグから発生する保険会社の損失をカバーするため、調整項(タイムラグマージン)を設定することが行われているが、その水準は、解約に伴う費用相当額として合理的かつ説明可能な範囲に設定する必要がある。本商品は、当該調整項の数値を必要以上に保守的に設定することは、中途解約をする契約者に過度の負担を強いることになることに留意し、過去の指標金利の推移を踏まえた上で、タイムラグマージンを 0.00%としたものであり、顧客本位の業務運営の観点から望ましいものと考えられる。

2.「令和2年6月 保険商品審査事例集」(PDF)P5~6
(2)指針Ⅳ-5-3(契約者価額)
<経済環境等の変化を踏まえたタイムラグマージンの適切な設定>
既存商品の支払事由等を変更する特約を創設するにあたり、タイムラグマージンの水準について、他の商品も含め直近開発商品の水準に改定すべく、可能な範囲で速やかに変更認可申請することとなった。

(コメント)
一般的に、MVAの適用にあたり、タイムラグマージン(※)の設定が行われているが、その水準は、解約に伴う費用相当額として合理的かつ説明可能な範囲に設定する必要がある。このタイムラグマージンの数値を必要以上に保守的に設定することは、中途解約をする契約者に過度の負担を強いることになることから、商品創設時との経済環境等の相違を踏まえ、現行販売している商品についてもその水準を直近開発商品の水準に見直すことは、顧客本位の業務運営の観点から望ましいものと考えられる。

審査においては、現在の経済環境等を踏まえ、直近に開発した商品のタイムラグマージンの水準の妥当性についても確認した。

(※)統一的な定義はないが、一般的に、保険会社が解約に関する利率を設定する時期と保険契約者が解約を決断する時期とのタイムラグ、又は契約者の解約申出時と保険会社の運用資産売却時とのタイムラグから発生する保険会社の費用(損失)に備えるためのマージンとして説明されている。

3.「令和4年1月 保険商品審査事例集」(PDF)P1~2
1.生命保険商品(約款・事業方法書)
(1)法第5条第1項第3号イ(契約者等保護)、指針Ⅳ-5-3(2)(タイムラグマージン)
<タイムラグマージンの適切な設定、検証・評価による可変化の対応>
解約時等に市場価格調整(MVA)が適用される商品に関し、解約返戻金額の計算基礎を設定する時期と解約時期の間に生じる金利変動や、解約に伴う運用資産の売却に係る取引費用等に備えるための係数(以下「タイムラグマージン」という。)の水準適正化にあたり、その水準の適切性について検証・評価を行うとともに、タイムラグマージンの水準設定に関しては一定の範囲(幅)で定める値として基礎書類に規定することとした。

(コメント)
タイムラグマージンに関し、リスク管理の高度化や資本調達コスト・取引費用等の見直しは継続して取り組むべき課題であるとの認識から、当社はタイムラグマージンの水準の適切性について継続的な検証・評価を行うこととし、それが過分な状況にあると判断した場合には適切な水準まで速やかに引き下げることを想定して、タイムラグマージンについては一定の範囲で定める値として約款および算出方法書に記載することとした。(実際に使用する値は事前に金融庁に届け出る。)タイムラグマージンについて、金利変動、取引費用等のマーケット水準に比して過分な水準となっていないか、年度ごとに検証・評価を実施し、適時適切な水準に見直しを行っていくことは、タイムラグマージンの趣旨や顧客保護の観点から、適当な対応と考えられる。

解約時等に市場価格調整(MVA)が適用される商品に関し、解約返戻金額の計算基礎を設定する時期と解約時期の間に生じる金利変動や、解約に伴う運用資産の売却に係る取引費用等に備えるための係数(以下「タイムラグマージン」という。)の水準適正化にあたり、その水準の適切性について検証・評価を行うとともに、タイムラグマージンの水準設定に関しては一定の範囲(幅)で定める値として基礎書類に規定することとした。

あわせて、解約時の運用対象資産の時価に基づいた額で解約返戻金額を調整するといった市場価格調整の趣旨を踏まえれば、契約時にタイムラグマージンを固定(ロックイン)するのではなく、解約時点におけるタイムラグマージンを適用して解約返戻金を支払うことには一定の合理性があると考えられる。したがって、契約者への説明上、当社のタイムラグマージンが可変のものであることや、その考え方について説明するとともに、パンフレットや契約のしおり、保険設計書等において、解約返戻金額の例示は、顧客本位な分かりやすい情報提供を行う観点から、上記「一定の範囲(0.00%~0.10%)」の上限である 0.10%(顧客にとって最も不利なケース)を使ったものを表示することとした。また、直近の数値については当社ホームページで契約者に適時開示し、契約者が自ら解約返戻金額を試算するための情報を提供するなど、顧客本位の対応を行うこととしており、適当と考えられる。

以上です。

韮の花にやってきたホシホウジャク(昨年9月撮影)。

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