高額療養費制度の見直し案判明-日経報道。

12月24日の日本経済新聞電子版に、高額療養費制度の見直し案についての記事がありました。

記事によると、

<①2025年8月から3回に分けて自己負担の限度額を引き上げる。平均的な年収区分の上位である約650万~約770万円の世帯の1ヵ月あたりの限度額は約13万8600円で、現在より約5万8000円高くする。

②2025年度予算案で医療、年金、介護などを合わせた社会保障関係費が38兆円台になることも分かった。高額療養費制度の見直しや薬価引き下げなどの歳出改革に取り組むものの、高齢化の影響※が上回り、過去最高を見込む。24年度予案は37.7兆円だった。

③高額療養費制度の見直しは15年以来10年ぶりとなる。第一段階として25年8月、現在主に5つある所得区分を維持したまま、自己負担の限度額を27~15%引き上げる。所得区分が高いほど引き上げ率を高くする。

③26年8月には住民税非課税世帯以外の所得区分を3つずつに分けて計13区分にし、同時にそれぞれの上位2区分で限度額を上げる。27年8月には同じく分で限度額をさらに上げる。最も高い年収約1650万円を超える世帯では限度額を月約44万4000円と、現在より約19万1000円高くする。

④70歳以上で年収が約370万円を下回る患者の外来受診に適用する「外来特例」の1ヵ月あたりの自己負担の限度額は、所得の低い層で据え置く一方、それ以外では年収に応じて26年8月に2000~1万円引き上げる。一連の制度改正により、加入者全体の保険料負担は年間で約3700億円減る見通し。1人あたりの保険料負担は年1100~5000円軽くなる。国費の抑制効果は約1100億円を見込む。

⑤制度改正を通じ、支払い能力に応じて負担を求める「応能負担」を強める。医療の保険給付を抑制し、現役世代に偏りがちな保険料負担の軽減も狙う。>

-とのことです。

※「医療費の増加は高齢者人口が増えるから」は誤り
医療費の増加やに伴う制度改革や税制の方針が報じられると、目にするようになるのが「医療費の増加は高齢者人口が増えるから」という見解です。

しかしこの見解には異論が多く*1、医療経済学では「医療費が増加するのは高齢者が増えるからであるという一般に流布している見解が誤りであることは、ごく初歩的な常識である」と指摘*2されています。

*1.論文「医療費適正化のための倫理的考察」(東邦大学:森 禎徳)では以下のように述べています。

「3.医療費増加の要因
 医療費増の原因としては、高齢化の影響を指摘する声が強い。確かに2016年度の概算値で見ても、75歳以上の高齢者医療費は15.3兆円であり、人口比では13.3%の後期高齢者が医療費の37.2%を占めており、1人当たりの年間医療費で見ても75歳未満の21.8円円に対し、後期高齢者は93万円と4倍以上の格差がある。従って、人口減少と高齢化が同時に侵攻する現在の日本では、高齢者の増加が更なる医療費の増加につながる、という推論は容易に成立するように見える。しかし高齢化と医療費増加を因果関係で捉える立場には異論も多い。

 例えば J・ニューハウスは、医療費が増加する主要な原因は医療技術の進歩であり、高齢化は医療費増の原因としては取るに足らないと主張している(Newhouse[1992])。また権丈善一は、高齢化によって医療費の増加圧力が高まることを認めつつ、実際にある国の医療費水準を決定するのは高齢化それ自体ではなく、その国の所得水準であると主張しているが、彼の考察は、医療費増が日本だけでなく先進諸国全体に共有される問題となっており、しかも1980年代の世界的経済不況をきっかけに医療費抑制や医療費の効率化が先進諸国で重要な政策課題となった、という経緯を整合的に説明しており説得的である(権丈[2001:205-210])。T・ゲッツェンもまた同様に、ある国の医療費水準は医療に対するニーズではなく富によって決まる、と主張している(Getzen[1995])。さらに印南一路は、詳細なデータを多角的に分析した結果、医療費増加の要因の中で高齢化を上回る項目として医師数、1人当たり県民所得、悪性新生物、平均在院日数、病床数を挙げており、高齢化は「医療費増加の一要因ではあっても、主要な要因とは言えない」と指摘した上で、「他の重要な要因を看過しない」(印南[2016:116])ことが重要だと主張している。
 
 これらの議論を総合すると、医療費は主として医療技術の進歩によって増加し、その傾向は最新の医療技術を積極的に導入する経済力のある先進国や国内の先進地域において顕著となることが分かる。一方、高齢者は医療ニーズが高く、結果的に受診回数や入院機会が多くなると同時に最新医療を利用する頻度も高くなるため、一見すると医療費増と高齢化には因果関係が見られるが、これはむしろ医療技術の進歩や、日本医療の特徴である在院日数の長さなど、他の要因に伴う副次的な現象と理解すべきだろう。

 確かに現在の日本は人類史上類を見ない高齢化社会に突入しているが、高齢化現象は人為的・政策的にコントロールすることが不可能である。それゆえ、医療費増加の原因や医療費抑制の方法を論じるにあたって高齢化を過剰に重視することは、(そもそも高齢化が医療費増の主因ではないという点を含め)二重に無意味である。同様に、医療費と所得の相関関係に関する複数の論者の指摘は、現在の医療費増は日本が高所得の国となり、豊かな社会を築き上げたことに伴う必然的な帰結であることを示唆しており、それゆえ私たちは、平均所得を切り下げ貧しい社会を志向するのでない限り、医療費の増加をある程度「必然」として受け入れねばならないだろう。その上で政策的にコントロール可能な要因に対して働きかけることが、現実的で有効な医療費抑制策であり、医療費「適正化」という観点から妥当な方向性と言えるだろう。

 それでは、医療費適正化を考えるうえで高齢化を無視してもよいかというと、そうではない。高齢化が最大の要因ではないにせよ、医療費が増え続けていることは否定し得ない現実であり、その医療費を高齢者ほど多額に消費する一方で、税や保険料の負担は軽減されていることも事実である。したがって、高齢化は医療費増加に関する問題としてよりも、世代間で医療費負担をいかに分配するかという「公正」に関する問題として捉え直すべきであろう。」

*2.科学技術社会論研究第17号(2019)「高齢者を巡る生政治~医療費増加の責めを高齢者に帰する言説の分析~」(常磐大学総合政策学部准教授:花岡 龍毅)より引用

↑師走の小栴檀草にやってきたツマグロヒョウモン♂(昨年12月撮影)。

がん保険と自由診療について。

今回は、少しづつ増えてきた「自由診療を保障するがん保険」と「自由診療」について書いて参ります。

管理人が現在勤務している乗り合い募集代理店で取り扱っている生命保険会社のがん保険のうち、3社のがん保険は主契約に組み込む形や特約で「自由診療」を保障対象としています。

では、そうしたがん保険は「すべての自由診療」を保障対象とするのか?

答えはNOです。

では、保障される「自由診療の定義」とは?と申しますと、弊社が取り扱っている3社のがん保険のうち、外資系生保のがん保険の場合は以下のように定めています。

<支払事由>
診断確定されたガンの治療を目的として、下記①②のいずれかの療養で入院又は通院*1をされたとき

患者申出療養*2または評価療養

②特定病院において行われる所定の自由診療

ただし、次の療養は除きます。
・先進医療による療養

・乳房再建術や乳輪・乳頭再建術などの形成再建手術

・遺伝子パネル検査(上記②の場合)

*1.治療処置を伴わない薬剤・治療材料の購入・受け取りのみの通院は、「治療を目的とする療養が行われる通院」に該当しません。

*2.療養を受けた日現在、公的医療保険制度に定める療養の給付に関する規定において給付対象となっている療養など、厚生労働大臣が定める患者申出療養でなくなっているものは除きます。

〇特定病院とは
療養を受けた時点で、厚生労働大臣が指定し、もしくは厚生労働大臣による承認を受けた病院、または公益社団法人日本臨床腫瘍学会によって認定研修施設と認められた施設で、以下の通りです。

最新の対象となる特定病院は厚生労働省又は日本臨床腫瘍学会のホームページを参照ください。なお、これらと同等と会社が認めた病院または診療所を含みます。

◇がん診療連携拠点病院等
・都道府県がん診療連携拠点病院

・地域がん診療連携拠点病院

・国立研究開発法人国立がん研究センター

・特定領域がん診療連携拠点病院

・地域がん診療病院

・小児がん拠点病院

・小児がん中央病院

・がんゲノム医療中核拠点病院

・がんゲノム医療拠点病院

・がんゲノム医療連携病院

・特定機能病院

◇日本臨床腫瘍学会認定研修施設:公益社団法人日本臨床腫瘍学会によって認定研修施設と認められた施設

では、民間クリニックが自由診療として行っている免疫細胞療法(ANK細胞療法など)は?と申しますと…論外ですね。そもそも、民間クリニックが行っている免疫細胞療法や代替療法(フコイダン等)は、エビデンスが乏しいあるいはまったくない代物(インチキ)です。

免疫細胞療法は一時期先進医療として行われていましたが、治療効果がないため先進医療から削除されました。そのひとつであるANK細胞療法(NK細胞を体外で培養・活性化させて体内に戻し、がんを攻撃させるというもの)が何故治療効果が得られなかったのかについては、2013年に東北大学が科学的に解明しています。

↑よそ様のキバナコスモスにやってきたホシホウジャク(9月撮影)。

陽子線、重粒子線治療の保険適用範囲拡大へ。

本題の前に、当ブログに関する非常に重要なことを申し上げます。2023年1月末をもってBiglobeのブログサービスが終了します。それに伴い今年4月(予定)に他社ブログサービスへの移行ツールが提供されることになりました。

季節のデザインテンプレートが豊富で、とても気に入っているブログサービスなのですが…あと1年で終了となってしまい、本当に残念です。なお、当ブログですが提供される移行ツールを使用し、他社ブログサービスで引き続き記事を気ままに書いていく所存です。

今後ともよろしくお願いいたします。

さて、本題です。

1月19日の日本経済新聞朝刊に、陽子線と重粒子線治療に関する記事がありました。

記事によりますと、

< 厚生労働省は18日の医療技術評価分科会で、放射線の一種である粒子線治療を巡り、肝内胆管がんなど5つのがんについて保険適用が妥当だとまとめた。これまでは高額な医療費が患者負担となっていた。月内にも中央社会保険医療協議会の総会で最終決定し、4月から全額保険適用とする。同治療の適用対象が拡大するのは4年ぶり。

大型の肝細胞がんや手術後に局所再発した大腸がんなどが新たに対象となる。いずれも切除ができない場合に限る。現在は保険適用の医療を併用できる先進医療の位置づけで、約300万円とされる粒子線の照射費用は全額自己負担となる。>

とのことです。

【管理人の感想】
記事では陽子線治療と重粒子線治療を「粒子線治療」と一括りにしているため、陽子線治療で保険収載が認められたものと、重粒子線治療で保険収載が認められたものの詳細が分かりません。詳細が分かるのはまだ先ですね。

昨年11月4日の医療技術評価分科会の医療技術評価・再評価提案書「提案書19」のP105~114(PDF)によると、日本腫瘍学会が提案した陽子線治療と重粒子線治療の適応拡大の概要は以下の通りです。

◇陽子線治療の適応拡大
〇適応拡大疾患:日本放射線腫瘍学会が定めた適応症
既保険収載疾患(小児腫瘍、骨軟部腫瘍、頭頚部悪性腫瘍、前立腺癌)に加えて、下記の5疾患の適用拡大を要望

①消化器腫瘍(原発性肝癌、胆道癌、進行性膵癌、食道癌、再発性直腸癌)

②肺・縦隔腫瘍(原曲性肺がん、局所進行非小細胞肺癌、縦隔腫瘍)

③泌尿器腫瘍(膀胱癌、腎癌)

④脳脊髄腫神経膠腫、髄膜種等腫等)

⑤少数転移性腫瘍(転移性肺腫瘍、転移性肝腫瘍、転移性リンパ節腫瘍)

国内の治療方針が統一され、既存の放射線治療との比較において、優位性また同等性が明らかである。

◇重粒子線治療の適応拡大
〇適応拡大疾患:日本放射線腫瘍学会が定めた適応症
既保険収載疾患(頭頚部腫瘍、骨軟部腫瘍、前立腺癌)に加えて下記5疾患の適応拡大を要望

①消化器腫瘍(肝胆膵腫瘍、食道癌、大腸癌術後再発)

②肺・縦隔腫瘍(肺癌)

③泌尿器科腫瘍(腎癌)

④婦人科腫瘍(子宮頸癌。婦人科領域悪性黒色腫等)

⑤少数転移性腫瘍(肝転移、肺転移、リンパ節転移)

治療方針が統一され、既存の放射線治療との比較で、優位性又は同等性が明らかである。

【記事の内容】
以下、日経の記事の内容です

-日本経済新聞 2022年1月19日朝刊-

【粒子線治療の保険拡大】
厚生労働省は18日の医療技術評価分科会で、放射線の一種である粒子線治療を巡り、肝内胆管がんなど5つのがんについて保険適用が妥当だとまとめた。これまでは高額な医療費が患者負担となっていた。月内にも中央社会保険医療協議会の総会で最終決定し、4月から全額保険適用とする。同治療の適用対象が拡大するのは4年ぶり。

大型の肝細胞がんや手術後に局所再発した大腸がんなどが新たに対象となる。いずれも切除ができない場合に限る。現在は保険適用の医療を併用できる先進医療の位置づけで、約300万円とされる粒子線の照射費用は全額自己負担となる。

粒子線は放射線治療で一般的なエックス線に比べ、がん部分に集中して作用する特徴がある。他の組織が受ける負担を減らしながら、必要な場所に高い放射線量を照射できる。2016年度に初めて保険適用された。粒子線治療は陽子線と重粒子線の2種類があり、現在は陽子線で4種類、重粒子線で3種類が保険適用されている。

食道がんや腎がんへの保険適用は見送った。粒子線治療がエックス線治療よりも生存率が高いといった明確な評価が得られず、1月初めの専門家会議では「一定の科学的根拠がある」との評価にとどめていた。

先進医療に位置づけているがん治療について、22年度から見直しを進める。保険適用にするほか、先進医療の枠組みから外すといったことも検討する。専門家からは「効果が不十分な治療もあり、一度再整理すべきだ」との声が上がっていた。21年度の診療報酬改定に向け、引き続き議論する。

以上です。

↑昨年8月に撮影したマユタテアカネ・♂。