生命保険協会が取りまとめた、令和6年10~12月の裁定概要集(PDF)に、がん保険のホルモン剤治療給付金の支払いを巡る裁定事案がありました。
事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。
<事案の概要>
約款上の支払事由に該当しないことを理由に、給付金が支払われなかったことを不服として、給付金の支払いを求めて申立てのあったもの。
<申立人の主張>
令和4年8月に成人型卵巣顆粒膜細胞腫*と診断され、治療のためにホルモン剤治療の処方を受けたため、平成28年11月に契約したがん保険にもとづき、ホルモン剤治療給付金を請求したところ、約款上の支払事由に該当しないことを理由に支払われなかった。しかし、以下の理由により、ホルモン剤治療給付金を支払ってほしい。また、保険会社の対応により精神的損害を被ったことから、慰謝料を支払ってほしい。
(1)本契約は、放射線治療給付金とホルモン剤治療給付金を回数無制限で一生涯保障されるもので、この保障が決め手となって加入した。
(2)申込手続前に保険会社に架電し、設計書を手元に置きながら、本契約の内容の説明を受けたが、その際、「ホルモン補充」のホルモン剤治療薬は保障の対象外だという説明は全く受けていなかった。
(3)卵巣がんの疑いで入院・手術が決まった際にも、保険会社に確認の電話をしたところ、担当者は「ホルモン剤治療が始まったときには、1ヵ月10万円支給されます」などと説明した。
(4)保険会社から、ホルモン剤治療給付金の支払対象外であるとの通知を受けた後、自分はコールセンターに電話をして理由を確認したが、説明が担当者ごとに変遷し、保険会社への不信感が募った。
*成人型卵巣顆粒膜細胞腫:卵巣がんの一種です。比較的珍しいがんで、罹患するのは主に閉経後の成人女性だそうです。
この事案は和解が成立しています。
保険会社の主張によると、約款に支払対象となるホルモン剤が明記されています。
ただ、裁定の概要を読むと担当者の説明は専門的で、電話の説明だけでは納得することは困難であることなどが指摘されています。
今回の事案は、仮に契約締結前にマーカーを引き、付箋をつけて説明をして約款を手交していたとしても防げないもので、請求事案発生後における情報提供の迅速さと丁寧さが求められる事案であると考えます。
【事案の内容】
以下、裁定事案の内容です(令和6年10~12月裁定概要集P25~26より転載)。
[事案2023-271]給付金支払請求
・令和6年10月1日 和解成立
<事案の概要>
約款上の支払事由に該当しないことを理由に、給付金が支払われなかったことを不服として、給付金の支払いを求めて申立てのあったもの。
<申立人の主張>
令和4年8月に成人型卵巣顆粒膜細胞腫と診断され、治療のためにホルモン剤治療の処方を受けたため、平成28年11月に契約したがん保険にもとづき、ホルモン剤治療給付金を請求したところ、約款上の支払事由に該当しないことを理由に支払われなかった。しかし、以下の理由により、ホルモン剤治療給付金を支払ってほしい。また、保険会社の対応により精神的損害を被ったことから、慰謝料を支払ってほしい。
(1)本契約は、放射線治療給付金とホルモン剤治療給付金を回数無制限で一生涯保障されるもので、この保障が決め手となって加入した。
(2)申込手続前に保険会社に架電し、設計書を手元に置きながら、本契約の内容の説明を受けたが、その際、「ホルモン補充」のホルモン剤治療薬は保障の対象外だという説明は全く受けていなかった。
(3)卵巣がんの疑いで入院・手術が決まった際にも、保険会社に確認の電話をしたところ、担当者は「ホルモン剤治療が始まったときには、1ヵ月10万円支給されます」などと説明した。
(4)保険会社から、ホルモン剤治療給付金の支払対象外であるとの通知を受けた後、自分はコールセンターに電話をして理由を確認したが、説明が担当者ごとに変遷し、保険会社への不信感が募った。
<保険会社の主張>
以下等の理由により、申立人の請求に応じることはできない。
(1)申立人に処方された薬剤は、本契約の約款に定める薬剤には該当しない。
(2)担当者が申立人にホルモン剤治療給付金を支払うと発言したことはなく、虚偽の説明を行った事実もない。
(3)本契約のパンフレットには、「所定の抗がん剤またはホルモン剤の投与・処方を受けられたとき」と記載してあり、本契約の約款に対象のホルモン剤が明記してあるので、当社は説明責任を果たしている。
(4)申立人と担当者との通話中、担当者らの回答内容に誤りはなく、違法と評価されるような対応もなかった。
<裁定の概要>
1.裁定手続
裁定審査会は、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、申込手続時の状況等を把握するため、申立人に対して事情聴取を行った。
2.裁定結果
上記手続の結果、申立人の請求は認められないが、以下の理由により、本件は和解による解決を図るのが相当であると判断し、和解案を当事者双方に提示し、その受諾を勧告したところ、同意が得られたので、手続を終了した。
(1)担当者らが行った説明は専門的なもので、申立人にとって電話の説明だけで理解するのは難しい内容であったため、申立人は令和5年6月から3回にわたり、対象となるホルモン剤の一覧表の送付を求めたと思われるが、保険会社は、令和5年7月には約款の規定の説明と薬剤を検索するためのウェブサイト等の案内をしたにとどまり、同年9月になって初めて申立人にホルモン剤一覧表を送付した。
(2)担当者らが繰り返し説明した約款所定の「ホルモン剤」に該当しないことは、ホルモン剤一覧表によってようやく客観的かつ明確に確認できるものであり、ホルモン剤治療給付金の支払事由が高度に専門的で、口頭の説明だけで納得することは難しいことや、申立人が令和5年6月から3回にわたってホルモン剤一覧表の送付を求めていたことからすれば、保険会社は申立人に対し、ホルモン剤一覧表をより早期に送付することが望ましかった。
以上です。
