法人契約の定期保険を巡る裁定事案(新契約取消し要求)。

生命保険協会が取りまとめた、令和6年7~9月の裁定概要集(PDF)に、法人契約の定期保険を巡る裁定事案がありました。

事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。

<事案の概要>
 契約の取消しを求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 令和2年9月に契約した定期保険について、以下の理由により、契約を取消して既払込保険料を返還してほしい。

(1)本契約の商品については、金融庁が業務改善命令を出しており、かつ保険会社が、本契約の商品の募集活動について保険本来の趣旨を逸脱するものと認めている。

(2)本契約にかかる募集は、名義変更を前提とする募集であった。

(3)税制改正後、保険会社退職後の募集人から、当初の目的が果たせなくなったことの説明と、名義変更手続きによる節税指南を受け、名義変更手続きをさせられた。

この事案は和解が成立しています。

保障の提供という保険本来の趣旨から逸脱した募集行為がなされた挙句、保険会社退職後の募集人は不適切な助言をしていますね。

法人契約の定期保険については2019年に国税庁が税務通達を変更し、損金算入できる範囲を変更前に比べてさらに厳しくしました。そして、2021年には名義変更を前提とした保険契約に対しての税務通達の変更を行い、課税強化を行いました。

2022年の夏には、ある外資系生保が税務通達の抜け穴をつく節税目的の保険募集を組織的に行っていたことで業務改善命令を受け、翌23年冬には、中小企業をメインターゲットとしている外資系生保が、名義変更による節税目的の保険商品の開発及び募集行っていたことで業務改善命令を受けています(こちらは保険業法第300条に抵触する恐れすらある悪質な行為も指摘されています)。

【事案の内容】

以下、裁定事案の内容です(令和6年7~9月裁定概要集P2より転載)。

[事案2023-193]新契約取消請求
・令和6年9月4日 和解成立
※本事案の申立人は、法人である。

<事案の概要>
 契約の取消しを求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 令和2年9月に契約した定期保険について、以下の理由により、契約を取消して既払込保険料を返還してほしい。

(1)本契約の商品については、金融庁が業務改善命令を出しており、かつ保険会社が、本契約の商品の募集活動について保険本来の趣旨を逸脱するものと認めている。

(2)本契約にかかる募集は、名義変更を前提とする募集であった。

(3)税制改正後、保険会社退職後の募集人から、当初の目的が果たせなくなったことの説明と、名義変更手続きによる節税指南を受け、名義変更手続きをさせられた。

<保険会社の主張>
 以下の理由により、申立人の請求に応じることはできない。

(1)募集人が本商品を提案した際、留意事項を記載した書面を提示して説明し、契約者から押印をいただいており、また、同署面には冒頭に税務の取扱い等が変わる場合がある旨が記載されている。

(2)税制変更の可能性について、募集人の説明が不適切であったという事実を確認することはできなかった。

<裁定の概要>
1.裁定手続
 裁定審査会は、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、契約時の状況等を確認するため、申立人および募集人に対して聴取を行った。

2.裁定結果
 上記手続の結果、本件は和解による解決を図るのが相当であると判断し、当事者双方に対し、和解を促したところ、同意が得られたので、和解契約書の締結をもって手続を終了した。

以上です。

↑道端のオオイヌノフグリにやってきたフタホシヒラタアブ(今月撮影)。

入院一時金の支払いをめぐる裁定事案(重大事由による契約解除)。

生命保険協会が取りまとめた、令和6年7~9月の裁定概要集(PDF)に、入院一時金の支払いを巡る裁定事案がありました。

事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。

<事案の概要>
 重大事由により契約が解除され、入院一時金が支払われなかったことを不服として、入院一時金の支払いを求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 令和5年4月に終夜睡眠ポリグラフィー検査で2日間入院したため、令和5年3月に契約した組立保険にもとづき入院一時金を請求したところ、約款上の重大事由に該当するとして、契約が解除され入院一時金が支払われなかった。しかし、以下等の理由により、入院一時金を支払ってほしい。

(1)募集人から、申込前に、複数社で保険の加入をすると給付金の支払い対象にならないなど、保険会社が重大事由による保険契約の解除を行うことの注意や説明はなかった。そのような重要な説明は、契約前に行うべきである。

(2)自分は、スポーツを20年ぶりに再開しようと思い、また、令和5年3月末にスキーに行く予定があったことから、複数の医療保険に加入した。自分は法人の代表者であり、複数の医療保険に加入したのは、経費処理の目的もあった。保険会社は、自分が複数の医療保険に加入したこと自体に非があるような主張をしており、複数の医療保険に加入したことに詐欺的要素があるとすれば、予め説明するのが当然だと思う。

(3)自分は、令和5年3月中旬ごろ、妻から睡眠時の無呼吸の指摘を受け、同月に受診したのであるから、タイミングを計って受診したものではない。

この事案は裁定打ち切りとなっています。

<保険会社の主張>によると、申立人は令和5年3~4月の間に7社7件の医療保険に契約し、入院一時金の合計額は180万円という極めて高額であったことが判明しています。保険会社は「保険事故の意図的召致」と疑っていますが当然でしょう。

重大事由による契約解除としたのは、当たり前の支払い査定結果であると言えます。

【事案の内容】

以下、裁定事案の内容です(令和6年7~9月裁定概要集・P39~40より転載)。

[事案2023-266]入院一時金支払請求
・令和6年8月7日 裁定打切り

<事案の概要>
 重大事由により契約が解除され、入院一時金が支払われなかったことを不服として、入院一時金の支払いを求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 令和5年4月に終夜睡眠ポリグラフィー検査で2日間入院したため、令和5年3月に契約した組立保険にもとづき入院一時金を請求したところ、約款上の重大事由に該当するとして、契約が解除され入院一時金が支払われなかった。しかし、以下等の理由により、入院一時金を支払ってほしい。

(1)募集人から、申込前に、複数社で保険の加入をすると給付金の支払い対象にならないなど、保険会社が重大事由による保険契約の解除を行うことの注意や説明はなかった。そのような重要な説明は、契約前に行うべきである。

(2)自分は、スポーツを20年ぶりに再開しようと思い、また、令和5年3月末にスキーに行く予定があったことから、複数の医療保険に加入した。自分は法人の代表者であり、複数の医療保険に加入したのは、経費処理の目的もあった。保険会社は、自分が複数の医療保険に加入したこと自体に非があるような主張をしており、複数の医療保険に加入したことに詐欺的要素があるとすれば、予め説明するのが当然だと思う。

(3)自分は、令和5年3月中旬ごろ、妻から睡眠時の無呼吸の指摘を受け、同月に受診したのであるから、タイミングを計って受診したものではない。

<保険会社の主張>
 以下等の理由により、申立人の請求に応じることはできない。

(1)申立人は、令和5年3月から同年4月までに本契約を含めて7社7件の医療保険に加入しており、入院一時金金額は合計180万円であることが判明した。申立人は、令和5年3月中旬ごろに、妻に言われてクリニックを受診したとのことであり、本契約後に初診を行うようにタイミングを計ったとの懸念が拭えない。

(2)本入院では、睡眠時無呼吸症候群の検査入院1回につき、180万円を受領できる一方、月払い保険料と一般的な入院費用の合計が極めて不均衡であると推認され、給付金の受領を期待した申立人が、保険事故を恣意的に発生させた可能性が強く推認される。

(3)申立人が受診したクリニックの問診表のうち、「①いびきを指摘されたのはいつですか」「②無呼吸を指摘されたことはありますか…無呼吸を指摘されたのはいつですか」に対して回答をしておらず、このことは、給付金を確実に受領するために、不支払の要素となる質問に対しては、意図的に回答しなかったものと推認される。

<裁定の概要>
1.裁定手続
 裁定審査会は、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、契約の経緯等を確認するため、申立人に対して事情聴取を行った。

2.裁定結果
 上記手続きの結果、以下の理由により、裁定手続を打ち切ることとした。

(1)重大事由による解除が相当か否かを判断するためには、本契約および他者の保険の加入の経緯・動機、保険契約者が支払う保険料の合計額、加入当時の保険契約者の生活状況(収入、支出等)及び財産状況(資産、負債等)、保険料の負担能力及び支払い状況、給付金の支払履歴および支払われた給付金があればその妥当性、被保険者の病状などを総合的に勘案して判断しなければならない。

(2)これらの事情を明らかにするには、証拠調べ手続を経る必要があるほか、第三者に対する文書送付嘱託または文書提出命令、医師等の第三者に対する尋問等の手続が必要となる可能性があるが、裁定審査会にはこれらの手続がなく、公正かつ適正な判断を行うためには裁判所における訴訟による解決が適当である。

以上です。

↑小寒に撮影した水仙。