生命保険協会が取りまとめた、令和6年4~6月の裁定概要集(PDF)に、特定疾病保険金の支払いを巡る裁定事案がありました。
事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。
<事案の概要>
約款上の支払事由に該当しないことを理由に、特定疾病保険金が支払われなかったことを不服として、保険金の支払いを求めて申立てのあったもの。
<申立人の主張>
令和4年9月に腺がんの診断が確定したため、平成22年1月に契約した終身保険にもとづき特定疾病保険金を請求したところ、上皮内がんは約款上の支払事由に該当しないとして、保険金が支払われなかった。しかし、以下の理由により、特定疾病保険金を支払ってほしい。
(1)上皮内がんは上皮から基底膜までに存在し、粘膜固有層から粘膜筋板に存在するのが粘膜内がんであるが、診断書の記載は、上皮内がんではなく粘膜内がんである。
(2)平成26年に約款が改定され、大腸の粘膜内がんは含まれないことが記載されたが、契約当時の約款には、「上皮内がんを除く」との記載だけで「粘膜内がんを除く」との記載がないので、粘膜内がんは支払対象である。仮に保険会社が、契約時に粘膜内がんを除去する意図があったとしても、その意図を自分が推認することは不可能である。
この事案は裁定が終了しています。
特定疾病保険の契約締結前に最も注意しなくてはならないのが、こうした支払事由非該当となるケースについての説明です。
申立人は大腸の粘膜内がん(腫瘍が最も内側の粘膜上皮やそのすぐ外側の粘膜固有層、粘膜固有層の外側の粘膜筋板のいずれかにとどまっており、粘膜下層にまで浸潤していない状態)なので、切除しきってしまえば再発や転移の恐れがほぼない上皮内がんに分類されます。
そのため、申立人のケースは支払事由非該当となるため、特定疾病保険金を支払うことはできません。
では、現在も上皮内がんは一切支払対象外なのか?と申しますと、そうではありません。保険会社によっては上皮内がんを支払対象としていることもあります。
乗合募集代理店を利用して保険相談をされるときは、そうしたことを比較することも重要です。
【事案の内容】
以下、裁定事案の内容です(令和6年4~6月裁定概要集・P41~42より転載)
[事案2022-322]特定疾病保険金支払請求
・令和6年6月25日 裁定終了
<事案の概要>
約款上の支払事由に該当しないことを理由に、特定疾病保険金が支払われなかったことを不服として、保険金の支払いを求めて申立てのあったもの。
<申立人の主張>
令和4年9月に腺がんの診断が確定したため、平成22年1月に契約した終身保険にもとづき特定疾病保険金を請求したところ、上皮内がんは約款上の支払事由に該当しないとして、保険金が支払われなかった。しかし、以下の理由により、特定疾病保険金を支払ってほしい。
(1)上皮内がんは上皮から基底膜までに存在し、粘膜固有層から粘膜筋板に存在するのが粘膜内がんであるが、診断書の記載は、上皮内がんではなく粘膜内がんである。
(2)平成26年に約款が改定され、大腸の粘膜内がんは含まれないことが記載されたが、契約当時の約款には、「上皮内がんを除く」との記載だけで「粘膜内がんを除く」との記載がないので、粘膜内がんは支払対象である。仮に保険会社が、契約時に粘膜内がんを除去する意図があったとしても、その意図を自分が推認することは不可能である。
<保険会社の主張>
以下の理由により、申立人の請求に応じることはできない。
(1)大腸がんについては、粘膜内にとどまるものは「上皮内がん」または「粘膜内がん」と表現されるのが一般的であり、がんの進行度を判定する基準として国際的に活用されている国際対がん連合(UICC)による最新の「TNM悪性腫瘍分類第8番」においても、結腸及び直腸のがんの壁深達度(T)については、「Tis 上皮内がん:粘膜固有層に浸潤」の分類があり、「Tis」は「がん細胞が粘膜固有層(粘膜内)に限局し、粘膜筋板から粘膜下層への進展を伴わない」上皮内がんとして定義されていることから、「大腸粘膜内がん」はTisに分類され、「上皮内がん」の扱いになっている。
(2)「大腸がん取扱規約第9版」「本規約とTNM分類の対照表」においても、「Tis がんが粘膜内にとどまり、粘膜下層に及んでいない」と記載されている。
(3)平成26年10月に、約款に「悪性新生物に大腸の粘膜内がんは含まれない」と追記したが、当該変更は「大腸粘膜内がん」の約款上の解釈を変更したものではない。
<裁定の概要>
1.裁定手続
裁定審査会は、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、保険金請求当時の状況を確認するため、申立人に対して事情聴取を行った。また、独自に外部の専門医の意見を求め医学的判断の参考にした。
2.裁定結果
上記手続の結果、特定疾病保険金の支払いは認められず、その他保険会社に指摘すべき特段の個別事情も見出せないことから、和解による解決の見込みがないと判断して、手続を終了した。
以上です。
