がん一時金の支払いを巡る裁定事案(責任開始日前発症による不払い)。

生命保険協会が取りまとめた、令和5年10~12月の裁定概要集(PDF)に、がん一時金の支払いを巡る裁定事案がありました。

事案の概要と申立人の主張は以下の通りです。

<事案の概要>
 責任開始日前発症を理由に、がん一時金が支払われなかったことを不服として、がん一時金の支払いと保険料の払込免除を求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 申立人の役員が令和4年1月から頭蓋内腫瘍摘出術を受け、同年2月に悪性神経膠腫と診断されたため、令和2年5月に契約した引受基準緩和型医療保険の重度三疾病一時金特約にもとづき、がん一時金を請求したところ、平成28年5月に瀰漫性星細胞腫と診断され、翌月、病名を告知されていることを理由として、一時金が支払われず、保険料の払込免除も認められなかった。しかし、以下等の理由により、がん一時金を支払い、保険料の払込みを免除してほしい。

(1)平成28年の脳腫瘍は良性であると主治医から伝えられており、セカンドオピニオンも得ている。また、告知時に募集人に伝えている。

(2)悪性新生物と診断確定したのは、令和4年1月の再手術時である。

この事案は裁定終了となっています。

申立人が摘出手術を受けたのは、悪性脳腫瘍(グレードⅡ~Ⅳ)の内の低悪性度(グレードⅡ)に分類されている、瀰漫(びまん)性星細胞腫(せいさいぼうしゅ)*です。

*希少がんセターの情報によると5年生存率は75%となっています。

申立人のびまん性星細胞腫は、平成28年5月の病理組織診断報告書で確定していることが保険会社の調査で明らかになっています。申立人が再手術を受けたのが令和4年1月…この結果、約款に定めている

「責任開始日前に悪性新生物と診断確定されていた場合でも、責任開始日の5年前の年単位応当日の翌日から悪性新生物責任開始日の前日までの期間に悪性新生物と診断確定されていないときは、悪性新生物責任開始日以後における初めての悪性新生物の診断確定を、悪性新生物責任開始日前を含めて初めての診断確定とみなしている…」

の支払事由に該当しないため、不払いと保険会社は判断しています。

【事案の内容】

以下、裁定事案の内容です(令和5年10~12月裁定概要集・P34~35より転載)。

[事案2022-280]がん一時金支払等請求 
・令和5年10月23日 裁定終了
※本事案の申立人は、法人である。

<事案の概要>
 責任開始日前発症を理由に、がん一時金が支払われなかったことを不服として、がん一時金の支払いと保険料の払込免除を求めて申立てのあったもの。

<申立人の主張>
 申立人の役員が令和4年1月から頭蓋内腫瘍摘出術を受け、同年2月に悪性神経膠腫と診断されたため、令和2年5月に契約した引受基準緩和型医療保険の重度三疾病一時金特約にもとづき、がん一時金を請求したところ、平成28年5月に瀰漫性星細胞腫と診断され、翌月、病名を告知されていることを理由として、一時金が支払われず、保険料の払込免除も認められなかった。しかし、以下等の理由により、がん一時金を支払い、保険料の払込みを免除してほしい。

(1)平成28年の脳腫瘍は良性であると主治医から伝えられており、セカンドオピニオンも得ている。また、告知時に募集人に伝えている。

(2)悪性新生物と診断確定したのは、令和4年1月の再手術時である。

<保険会社の主張>
 以下等の理由により、申立人の請求に応じることはできない。

(1)平成28年5月の病理組織診断結果報告書における病理診断で「Diffuese astrocytoma(WHO GradeⅡ)」とされており、既に悪性新生物の診断確定がなされている。約款上、悪性新生物か否かの基準はICD-0の性状コードに従って判断されるところ、瀰漫性星細胞腫は「/3悪性 原発部位」であり、悪性新生物に該当することは明らかである。

(2)約款の規定により、責任開始日前に悪性新生物と診断確定されていた場合でも、責任開始日の5年前の年単位応当日の翌日から悪性新生物責任開始日の前日までの期間に悪性新生物と診断確定されていないときは、悪性新生物責任開始日以後における初めての悪性新生物の診断確定を、悪性新生物責任開始日前を含めて初めての診断確定とみなしているが、本件で診断確定を受けたのは責任開始日の5年前以内である。

(3)悪性新生物の診断確定は、医師により、病理組織学的所見によることとなっており、医師が申立人にどのような説明をしたかによるものではない。また、保険料の払込免除やがん一時金の支払いについては、セカンドオピニオンを考慮する必要ななく、募集状況も影響しない。

<裁定の概要>
1.裁定手続
 裁定審査会は、当事者から提出された書面にもとづく審理の他、契約時の状況等を把握するため、申立人の役員に対して事情聴取を行った。また、医学的判断の参考とするため、独自に第三者の専門医の意見を求めた。

2.裁定結果
 上記手続きの結果、がん一時金の支払は認められず、その他保険会社に指摘すべき特段の個別事情も見出せないことから、和解による解決の見込みがないと判断して、手続を終了した。

以上です。

↑馬酔木で吸蜜中のキタテハ秋型(3月撮影)。

外貨建一時払保険のプロダクトガバナンス態勢と販売・管理態勢に課題。金融庁のモニタリング結果。

4月3日、金融庁はHPにて、「リスク性金融商品の販売会社等による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果」(2023事務年度中間報告)を発表*しました。

*詳しくはこちらをどうぞ。
4/3・報道発表資料 リスク性金融商品の販売会社等による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果(2023事業年度中間報告)(PDF)

【管理人の感想】
上記報道資料は、

①外貨建一時払保険と仕組み預金のプロダクトガバナンス、販売・管理体制の検証結果

②外貨建一時払保険の運用パフォーマンス分析及びターゲット型保険に関する販売・管理体制の検証結果

③外貨建一時払保険における顧客の属性に応じた販売・管理体制の検証結果

-で構成されています。

まぁ、米ドル建一時払終身保険等の外貨建一時払保険商品を、投資信託といった資産形成のための金融商品と同じ扱いにして、資産形成の手段とするのは無理がありますね。

保険関係費用などの手数料がかさみ、流動性に劣る外貨建一時払い保険を、投資信託といった金融商品と比較すれば、どちらが資産形成の手段として適切なのかは一目瞭然でしょう。

ターゲット型保険?そんな分かりにくい保険商品を契約させようとすること自体論外だと思っています。

【モニタリング結果の概要】

以下、モニタリング結果の概要です(上記報道発表資料より抜粋・転載)。

〇プロダクトガバナンス態勢
1.リスク・リターンの検証等

【販売会社及び組成会社に求められる事項】
◇販売会社及び組成会社は、まず、適切な検証機関のもとでリスク・リターンの合理性などを十分に検証すべき

【モニタリングで判明した課題】
〇全ての重点モニタリング先で実施されていない。

・すべての重点モニタリング先で、リスク・リターン検証が行われていない。

2.顧客の最善の利益追求に資する商品導入の判断、商品性の事後検証と見直し・廃止

【販売会社及び組成会社に求められる事項】
◇販売会社及び組成会社は、リスク・リターンを十分に検証等したうえで、顧客の最善の利益に資する商品の導入を判断すべき。また、導入後も、販売実績等を基に商品性を事後検証し、必要性に応じて商品性を見直し・廃止すべき。

【モニタリングで判明した課題】
〇全ての重点モニタリング先で実施されていない。

・トータルリターンを把握しないまま、「積立利率」といった表面利回りの情報等に基づき、実質的な議論なく、導入を判断。

〇販売・管理態勢
1.顧客の属性に応じた販売

【販売会社に求められる事項】
◇顧客の資産・収入状況、取引経験、知識、取引目的・ニーズおよび判断能力等の属性に応じて、当該顧客にふさわしい商品を販売・推奨すべき

【モニタリングで判明した課題】

・多くの重点モニタリング先で、知識・投資経験の不足や投資方針との不一致に懸念がある顧客に販売。

2.他のリスク性金融商品との比較説明

【販売会社に求められる事項】
◇顧客が投資判断に必要となるリスク・リターン・コスト等について、「原則」等を踏まえ、他のリスク性金融商品と比較しながら説明・提案すべき。

【モニタリングで判明した課題】
〇全ての重点モニタリング先で適切に実施されていない。

・多くの重点モニタリング先で、比較説明しているものの、マネープランガイド等によるリターン・コスト等の大小比較や、保険商品間での重要情報シートの活用にとどまる。

〇運用パフォーマンス分析及びターゲット型保険に関する販売・管理体制の検証結果

【運用パフォーマンスの検証結果】

・金融庁が、代表的な外貨建一時払保険(運用型)8商品の運用パフォーマンスを分析したところ、2023年8月末時点での運用終了分(継続期間2.5年)の外貨建一時払保険は、継続期間5年以上の同保険(又は同種商品に投資する先進国債券の投資信託)と比べ劣後している。

 現状の販売・管理体制のもとでは、ターゲット型保険を中心に、外貨建一時払保険購入後4年間で約6割の解約等が発生しており、同保険組成時の長期運用前提の想定より契約継続期間が短期化している。また、解約等に発生する費用が利幅を押し下げている状況※が窺われる。

※運用終了分のパフォーマンスを運用成果要素別で分析すると、積立増加効果は薄く利益のほとんどは円安で、解約等費用(市場価格調整と解約控除費)がその利幅を押下げ。

【ターゲット型保険に関する販売・管理態勢の検証結果】
・全ての重点モニタリング先で、運用型商品のひとつであるターゲット型保険のほとんどが目標値に到達すると解約され、同時に同一商品を同一顧客に販売する事例が多数発生している。こうした乗換販売によって販売手数料等が二重に発生することを考慮すると、顧客にとって経済合理性があるとは言えない。販売会社は、目標到達前に顧客に対して無償で目標値の引き上げが可能である旨を伝達した上で顧客の意向を踏まえてアドバイス流するなど、顧客を適切にフォローすべきである。

・多くの重点モニタリング先で乗換販売の実態を把握していないほか、顧客本位の業務運営を確保する観点からの実効的な検証・監査ができていない。

・全ての重点モニタリング先で、保障・相続ニーズがある顧客にターゲット型保険を販売しているが、少なくとも、中途解約した顧客については、これらのニーズを満たせていないと考えられる。

〇外貨建一時払保険における客属性に応じた販売・管理体制の検証結果

【顧客層の検証結果】

・多くの重点モニタリング先で、「元本毀損するとは聞いていない」といった苦情が発生しているため、金融庁が、当該保険を販売した287名の顧客カードを分析したところ、全体では2割で知識・投資経験の不足や投資方針との不一致に懸念があった。苦情が発生した顧客(87名)に限れば、その割合は3割弱となる。

【適切な動機付けの検証結果】
・全ての重点モニタリング先で、ターゲット型保険については、乗換販売といった顧客にとって経済合理性があるとは言えない事例が多く確認されている。

・ターゲット型保険にかかる役務を見ると、全ての重点モニタリング先で、初年度の負担(商品説明・契約等)に比べ、2年目以降から満期までの合計負担(顧客へのフォローアップ等)の方が大きい状況が見受けられる。一方、販売会社から受け取る手数料体系を見ると、全ての重点モニタリング先で、初年度の比重が重いL字型(例えば、初年度5.5%、2年目以降0.1%等)が採用されている。

・こうした役務に係る負担に見合った手数料体系となっていないことが、乗換販売に繋がっている一因と考えられる。外貨建一時払保険を含むリスク性金融商品の手数料体系が過度にフロービジネスを助長する販売姿勢に影響を及ぼしていないか、検証を継続していく。

以上です。

↑3月に撮影した彼岸桜と大島桜。